其ノ三 衣

 健吉が外に飛び出して行く物音に驚いて、健吉の祖母の盲目のおばば様が、何事かと物に伝わりながら外へ出ようと致しましたので、それを見て居た正太郎はたまらず、後ろからおばば様の背中を支えてやりました。


 健吉は刈り取りの終わった秋の田畝でんぽ畦道あぜみちを、嫌な予感に突き動かされながら、村の西側に流れる櫛見川くしみがわの方に向かって無我夢中で走って行きました。


 川は夜半からの雨でかなり増水しているはず。何が有ったかは知れないが、もし昨夜おまさが川に近づいたとしたら、崖崩がけぐずれの危険も有る。


 健吉の思考は悪い方へ悪い方へと傾き、頭が真っ白になる中、見る者を圧倒する程の紅葉こうようが迫る渓谷けいこくを見上げました。そして、川原かわらに降りて行く斜面に有る獣道けものみちの、入り口近くのごつごつと荒々しい木の根元に、何か白いころもの様な物が広がって落ちているのを見つけたので御座います。



来週に続く



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