其ノ二 剣幕

 その少し前健吉の家では、昨夜柔らかく良い香りのする夫婦布団めおとぶとんに一人寝落ちした後、夜明けになり鳥の声で目を覚ました健吉が、大変な事に気が付きました。


「居ない、おまさが居ない! 一体、どこへ消えたんだ?」


 健吉は家の中を隅々まで探し、宴席に使われて居た居間の座布団の上で、転がる酒瓶さかびんの間に酔っ払ったまま眠って居た、庄屋の正太郎しょうたろう口入くちい権三ごんぞうを起こしました。


「正太郎さん! 権三さん! おまさを、おまさを見ませんでしたか?」

 健吉の凄い剣幕けんまくに、正太郎は眠い目を擦りながら、寝呆ねぼけた声でこう答えました。


「ん? おまさ? あ、いや、おまさなら、客が俺と権三の二人だけになった後も、顔は見た様な気がするが、その後はてっきりお前の所に行ったものとばかり……」


 それを聞いて、健吉は何やら悪い胸騒むなさわぎがして、土間どまの戸口から家の外へ、おまさを探しに飛び出して行きました。




明日に続く

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