後編 空蝉

其ノ一 神隠し

「……くしだ。神隠かみかしだ。」


きつねか? おにか?」


「恐ろしい。この世のものとも思えぬような美しい嫁御よめごだったからのう……。鬼神きしんに魅入られ、神隠しにでもったのだろうか……?」


 昨夜のたのしいうたげの余韻のまま、私お優は、若い二人に幸せのお裾分けをして貰ったような夢見心地で、山野村やまのむらの少し小高い丘の上に有る、庄屋しょうや正太郎しょうたろうの屋敷の柔らかな布団の上で眠りに着きましたが、一夜明けた早朝、城下じょうかではあまり耳にしない、珍しい種類の鳥達の鳴き声に混じって、村人達がこの様に大きな声で立ち騒いで居るのを聞いて、目が覚めたので御座います。


 一体何事かと思い、私は簡単に着替えを済ませて階下かいかに降りると、同じように今お目覚めになられたご様子の先生が、慌てて羽織はおった十徳じっとくも着乱れたまま、別室から飛び出して来て階下へ降りていらっしゃいました。


「お優、これは何事だ? 一体何が起きて居るのだ?」

 と先生は寝起きで乱れたままの御髪おぐしを掻きながら、私に尋ねたので御座います。



明日に続く

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