木居宣長 町医者ばなし~源氏物語奇譚~【朝の連続ネット小説】

知良うらら

第一帖 空蝉

序 木居家の朝

其ノ一 プロローグ

「いいかい、おゆう。私にとっては、医業は家族の生計を立てる為の営みに過ぎぬ。私が常日頃から本懐ほんかいと思うて居ることは、文学、つまるところ源氏物語げんじものがたり、もののあはれだよ。お分かりか。」


 先生は、いつもこんな事ばかり仰っていらっしゃる割に、目の前に現れる心身共に弱っておられる患者様方の事は、どうにもこうにも放って置けないご性分でいらっしゃるらしく、どうにかこうにか治しておしまいになる。いいえ、ご病気やお怪我だけでは御座いません。人の心の奥までも、時にはお治しになられてしまうのですから、ほんにまあ、頭の下がる事に御座います。


 時は江戸、ここはとある城下町。


 私は医師、木居宣長もくおりのりなが先生の所で下働き兼医者修行をさせて頂いて居る、名を「おゆう」と申します。以後、お見知り置きを。



明日に続く



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