其ノ二十 吐血

 その頃、私お優と先生は、昨夜お夏が吐血とけつしたと聞きましたので、診察のため例の町の小路こうじのあばらに向かって歩いて居る所でした。


「先生、吐血と言うのはどの様なやまいが考えられますか?」

 と私が先生に尋ねますと、

「そうさのう、まあ軽い物だと潰瘍かいようと言って、胃の粘膜がただれているだけの事も有るが、最悪の場合、労咳ろうがいと言う事も有り得る。吐いた血やたんの色、顔色、胸の音、せきの仕方などで総合的に診断す……」


 その時、私達がお夏の家に向かう角を曲ると、お産の時にもものに怯えて護摩ごまいて騒いでいたあの女中の老婆が、


「大変だ、大変だ、刃物を持った女がお玉様に!」

 と言って、大声で立ち騒いで居る声が聞こえて来たのでした。


 明日に続く

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