其ノ七 草履

 私に問い詰められると権三ごんぞうは、

「いやあ、あっしら口入くちい稼業って言うのは、こう言う事は本人達に直接話すすじのもんでは無えのです。分かって下せえ。」

 と、急にいやしくへりくだってこう言いました。


有無うむ……。どう言う事情が有ったにせよ、おまささんが、もしこの急流に流されて何処どこかに流れ着いて居るとしたら、見つけるのが一刻でも早い方が、命が助かる確率が上がる。皆、急ぎ手分けをして、ここより下流を探すのだ、良いな。」


 御職業柄、沢山の人々の生命の危機に向き合って来た医師である先生は、この様に冷静に皆に声掛けをしました。


 村人達は、先生のおっしゃる通りとうなずきながら、お前は丸木橋まるきばしの向こう、お前は亀岩かめいわの周り等と割り当てを決め、各々の持ち場に散って行きました。


 しばらくして、村人の一人が、がけに突き出して居る大きくて平らな岩の上に、る物を見つけ出しました。


「おうい! 皆の者。草履ぞうりが、花嫁の履いていた白い鼻緒の草履ぞうりが、岩の上にきちんと揃えて置いて有るぞ!」



明日に続く

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