其ノ二十 現世

 祈る? 何に? こんな現世うつしよには、神も仏も在りはしない。有るのは弱くて貧しい者を食い物にする、薄汚い人間の欲だけだ。


 おまさの心の声がそう叫んでいる時、九平次くへいじのもう片方の手がおまさの肩に回り、抱きすくめたような格好になりました。


 おまさが思わず体を後ろに引くと、

「おいおい、勿体ぶるんじゃねえよ。お前のみさおをいただくには三百両、そのうち手付けの百両は、もうお秀さんに払い済みなんだ。お前はもう俺の物なんだから、今更じたばたするんじゃねえ。」

 と九平次は言い、強引におまさに顔を近づけ接吻せっぷんすると、九平次の口の中の汚い粘液がおまさの口の中に流れ込み、おまさの頬には滂沱ぼうだの涙が流れ落ち、胸や肩には泡立つ様なかゆみと鳥肌が立ち、おまさはまさにこの世の終わりの様な気持ちで、その場に座り込んで居たのでした。




来週に続く

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