其ノ十三 医学師範

 私と先生が思わずその広場の方に目をやると、そこには背丈せたけ六尺ろくしゃくほどの筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした大男が、かたな大小だいしょうを模した大太刀おおだち小太刀こだち竹刀しないを左右の手に持ち、上半身肌脱はだぬぎになり、倒れて居る立ち合い相手の、医者姿をした小柄な若者の目の前にそびえ立って居りました。


「おいおい、医学師範いがくしはんの秀才若先生わかせんせいよお、掛かってこんか!

 漢籍を何十冊そらんじられたって、そんな弱っちい足腰じゃあ、ろくな治療も出来っこ無いぞ?」


 倒れて居る小柄な若者の方は、竹刀しないで激しくめんを食らったのか、ひたいから血を流しながら、殺気だけは十分にみなぎらせ、侮辱された悔しさに燃えた瞳で大男を見上げ、痛みをこらえながらにらみ返して居りました。


「先生……! あれはもしかして、春庭様では?」


 私は驚いて、先生にこうお尋ねしました。



明日に続く

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