其ノ十一 懐紙入れ

 健吉が屈強な男達に投げ飛ばされるのを目にした私は思わず、

「ちょっと、酷いじゃない! 多勢に無勢で!」

 と門番の男達に食って掛かろうとしましたが、人の背丈より長い六尺棒ろくしゃくぼうで十字に固く塞がれましたので、それ以上手も足も出せませんでした。


 私は諦めて膝の埃を払い、放り出された健吉の大切な財布を拾って健吉に手渡すと、張見世はりみせ格子こうしの前の路地で、先生と共に健吉の足の傷の手当てを始めました。


「お優さん、済まないね……」


 傷の痛みをこらえながら健吉が言うと、張見世はりみせ格子こうしの隙間から、何かが書かれた懐紙かいしが一枚、ひらりと落ちて参りました。


 見上げると格子こうしの隙間から、装った振り袖姿のおまさが目に涙を溜め、健吉の財布と揃いの生地で作られた千筋せんすじ縞柄しまがら懐紙入かいしいれを、健吉には見えるように、それでいて置屋おきやの他の者達には気付かれぬよう、そうっと差し出して居たので御座います。




来週に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る