其ノ十 六尺棒

 遣手婆やりてばばのお秀にそう怒鳴られて、六尺棒ろくしゃくぼうを持った屈強な男達に突き飛ばされ、玄関から転がり出て来た若い男は、あの山野村やまのむらの青年、健吉でした。


 お秀は追い討ちをかける様に、

「まさきちには三百両払っても身請けしたい、って言うお大尽だいじんが付いて居るんだ。たった二十両ぽっちじゃあ、お話にもならない。とっとと消えな。」

 こう言い放つと、虫けらの様に健吉を追い払い、健吉が去年の春の鎮守ちんじゅ祭りの日の朝に、おまさに貰った手作りの千筋せんすじ縞柄しまがらの大切な財布を、心無くも道端に投げ捨てたのでした。


 この騒ぎの声を聞いて、遊女達は張見世はりみせ格子こうしの隙間に張り付いて、息を呑んで事の次第を見守って居ましたが、その中には髪を桃割ももわれに結って、夜からの宴席に備えて支度をする途中の、おまさ本人の姿も有ったので御座います。




明日に続く

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