其ノ三 控えの間

 どうにか難を逃れ、自身のひかえのに下がったおまさはとこに着き、つらつらと今夜の事を思い返して居りました。


 嗚呼ああ、それにしても染太郎姐そめたろうねえさんは、どう言うご了見で身代わりなどと言う恐ろしい事を思い付かれたのだろう? 昼間の私と健吉の身の上話を聞いて、御同情でもなさったか? それとも、店一番の太客ふときゃく九平次を、私で無く自分のなじみにしようとしたのか。


 やはり不可思議な染太郎姐そめたろうねえさんの行動には違いないが、取り敢えずは今宵一晩、私の貞操を守る事が出来たのだから、染太郎姐そめたろうねえさんには感謝をしてもし切れないだろう。

 ただ、だからと言って親に売られた自分にこの先待ち受ける暗い運命を、一晩先送りにしただけに過ぎないのかも知れないが……。


 そんな事を考えながら、十五のおまさはいつの間にか、健やかな眠りに落ちて居たので御座います。



明日に続く

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