其ノ四 廓医師

 それから十日ほど経ちまして、本日は置屋おきや成香屋なりきょうやのお抱え医師による、月に一度の遊女のお診立みたての日に御座いました。


 医師と申しましても、中堅どころの置屋おきやである成香屋なりきょうやのお抱えの権太夫ごんだゆうは、京の御典医ごてんいの元で御修行なさった木居宣長もくおりのりなが先生のようなきちんとした筋目すじめの者では無く、娼妓おんなの所に長逗留しているうちに、兄貴分の猿真似をして耳学問で覚えた、博徒ばくと上がりのいい加減な廓医師くるわいしなので御座います。


 それでも、いやそれだからこそ、損得勘定第一の遣手婆やりてばばのお秀にして見れば権太夫ごんだゆうは使い勝手が良く、遊女が妊娠してしまった時の中条ちゅうじょうやら、梅毒ばいどくのような性病を見つけさせては店の評判が傷つかぬよう、上手うまい事隠してやり過ごすのに好都合だったのです。


 お秀は、おまさがもう既に九平次くへいじの女になったと思い込んで居ましたので、今回の遊女のお診立みたてに加わる様に命じました。この日おまさは、此処で下働きを始める前から時折現れるかゆみの伴う発疹ほっしんを、肩や太腿ふとももや腕に抱えており、かゆみに堪えながら診察の順番を待って居たのでした。



来週に続く

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