其の十三 憤懣

「それは……」

 高蔭たかかげはいったん言葉に詰まりましたが、こう続けました。

「おりくの体調が良くなったら……いずれは、と思っている」


「いずれは……?」


「母親のお夏が労咳ろうがいかかってしまってね。母上と良く話し合った結果、娘は私の両親の手元で育てる事に決まったんだ」


 決まった事……。そのような大事な事を、私に何の相談も無く、しゅうとめと夫で決めてしまうとは。しかも女は労咳?


 ああ、私は今何を聞いてしまったのだろう……? 夫が、これから女の所に子供を引き取りに行くと知っただけでも頭の中が混乱したのに、それ以上に色々と重大な事柄を、どんどん畳み掛ける様に打ち明けられても……とお六はたたただ戸惑うだけでした。


 正妻の自分がこの家にないがしろにされている事への怒り、高蔭の心を奪ったお夏への嫉妬しっと、母親の言うなりになる不甲斐ふがいない高蔭への憤懣ふんまん、そして幼いお玉への、愛着と憐憫れんびん


 心を病んでいるお六にはこれら全ての事を、一度に受け容れられるはずもありませんでした。



明日に続く

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