其ノ二 四十五里

「力加減は宜しゅう御座いますか?」


 いつもの様にきゅう施術せじゅつが終わった後、奥方様おくがたさまのお腰をお揉みするのですが、相変わらず奥方様は、女の私でも目のやり場に困ってしまうほど、妖艶ようえん豊満ほうまんなお姿で御身おんみを横たえていらっしゃるので御座います。


「あゝ……。良いわね。そこ、そこが良くてよ。もっと強くても良いぐらい……。

 お優、ますます腕を上げましたね。いっそ、国元くにもとに連れて帰りたくなるくらいだわ」


 奥方様はそんな事を仰いますが、奥方様の仰る国元とは、この伊勢湾いせわん沿いの城下町から山道をはるか四十五里しじゅうごりも越えた所に御座います。この地で生まれ育った私にとって、想像するだに果てしない所。ましてや、この城下を離れてしまっては、この先、春庭様のお顔を拝する事すら叶わない様になってしまうでしょう……。


「そんな、私など……。勿体無もったいない事に御座います」

 とだけ、お腰を揉む手を止める事なくお答えしました。



明日に続く

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