其ノ二十七 百両

中室なかむろに……。」


 中室なかむろと言うのは、この城下に有る西と東の遊里いろざとのうち東側の一角で、夜な夜な男達が遊び歩き、私の様な若い娘は、昼間でも決して近寄っては行けないと、奥様や女中頭じょちゅうがしらにきつく言われて居る様な場所に御座います。そんな所に、私と年もそうは変わらない、あの気立ての良く賢そうななおまさと言う娘が、一家が離散した上、ある日突然売られて行ったとは。


「だから俺は決めたんだ。俺がおまさちゃんを取り戻す。口入れ屋の権三ごんぞうの話だと、身請けをするには、家の借金分も含め、百両ひゃくりょうは下らないと聞く。だから……。」


 健吉は歯を食いしばり、おまさに貰った藍染あいぞめの縞模様しまもようの財布を強く握り締めて、こう言いました。


「俺は稼ぐよ。この城下の豪商、丹後屋たんごや大津屋おおつやみたいな大金持ちになって、この財布を、いや、蔵を一杯にしておまさちゃんを迎えに行く。」



明日に続く

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