其ノ十四 爪紅

「ふうん……。さっき、わちきは見たよ。その生地、あの男の投げ飛ばされた財布と揃いだろう?」


 染太郎姐そめたろうねえさんは、指先を鳳仙花ほうせんか爪紅つまべにで鮮やかに染め、小指が一つ無い手で掴んだ煙管きせるを口元に運び、ふううと一筋紫煙しえんを吐いてから、

「しかしこんな高そうな懐紙入かいしいれ、良くここに来るまで口入くちいの目をくぐれたもんだねえ。」


 染太郎姐そめたろうねえさんがその懐紙入かいしいれをひらひら回しておまさに返すと、おまさはそれを奪う様に受け取り、罠に掛かった小さな鼬鼠いたちのような目でねえさんを睨み返すと、単衣ひとえふところの奥の奥まで仕舞い込みました。


「おおよそ、さとの男にみさおを守ると約束して、お互い肌身離さず揃いの小物を持ち歩いて、いつかは男が自分を取り返してくれるとでも思って、その日をひたすら待ち侘びているって、まあそんなところだろう?」



明日に続く

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