其ノ五 袴

「さて、と。お迎えが来ているようだな。本日はこの辺で。春庭、ではまた」


 大雨の中でもぴいんと背筋を伸ばした姿勢の良い藤堂平三郎とうどうへいざぶろうは、私がひさしの下に居る事に気付き、そう言って春庭様と私を残し、颯爽と歩み去って行きました。


「……まったく、お優にはいつだって、格好悪い所ばかり見られてしまうね」

 春庭様ははかまに着いた土を手で払いながら、決まり悪そうに私にこう仰いました。


「先月、とどろきにこてんぱんにやられて以来、こうして時折、藤堂さんに剣を見て貰っているんだ。私は本当に運動はからきしだから、いくら鍛えてもさっぱりなんだけどね」


 春庭様はそう仰って頭を掻きましたが、苦手な事からも逃げずにこうして陰で努力をなさる所が、とても春庭様らしく、感心な事だと私は思いました。



明日に続く

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