其ノ十 髪

 白くて、黒いもの。


 発見した村人が、恐る恐るに近づくと、黒いは、浅瀬の砂地に扇形に広がって居る、艶々とした若い女の髪でした。


 そして、白いは、透き通る様に血の気の抜けた若い女の肌。川の流れに揉まれたのか、はだけた白い襦袢じゅばんから、磁器じきの様な青白い手足が覗いて居りました。


「ああ、これは……。これはおまさだ。生きて居る様には見えねえ。

 恐ろしい、恐ろしい! 誰か、早く、早く! お医者の先生! なんまいだぶ、なんまいだぶ。」


 村人が叫ぶ声を聞きつけた先生と私が、蛇滝へびたきの岩場を回って駆けつけた時には、おまさはもう息をして居る様には見えませんでしたが、けがれを恐れて近寄る事も出来ない発見者の村人をよそに、先生はつとめて冷静に、松の根元に引っかかって居た女の体を、比較的平らな砂地の所に運んだ後、体に絡みついたあしを取り除き、襦袢じゅばんひもく様に、私に命じたので御座います。



明日に続く



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