其ノ十五 障子窓

 硝子皿がらすざら紅猪口べにちょこなどを散々投げ散らかした後も、おりくはまんじりともせず朝まで眠りに着く事は出来ませんでした。


 体の具合が良く無いと言って朝餉あさげを断り、障子窓しょうじまどの隙間から、ただぼうっと虚無きょむの目で中庭を眺めて居ると、掃除の女中が入って来て、少し怪訝けげんな顔をしながらも、投げ出された品々の破片に気を付けながら片付けをして居りました。


「お加減がお悪い様ですので、お布団はこのままお出しして置きますか?」


 とおそるおそる女中がお六に尋ねた時には、お六は着の身着のままの格好で、化粧もせず、ほつれたびんく事無く、中庭用の突っ掛け草履ぞうりを履いて、ただ一人ふらふらと何処かへ出て行きました。


 その痛ましいほどやつれたお姿は、傍目はためにはとてもこの方が、大商家の本家の奥方おくがた様だとは分からない程でした。


「あの人は……、あの人は今頃、何処に居るのかしら……?

 お夏と、その娘とむつみ合って居るのだろうか……?」



 明日に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る