其ノ二十四 酒瓶

 嗚呼ああ、まさかあの時に、九平次くへいじから梅毒ばいどくをうつされたのでは無いだろうか? 後日、廓医師くるわいしにそう診立みたてられたのでは、恐らく間違いは無いのだろう、しかも……。


 おまさは普段から時々、自分の肩や腕や胸にかゆみが走る事を思い出しました。ああ、これがいわゆる梅毒の発疹ほっしんと言うものなのか? 何と言う事だろう……!


 おまさは、九平次とのあの夜の悪夢の様な接吻せっぷんを思い出し、体の奥底から湧き上がる、泡立つ様な痒みを感じ、打掛うちかけの中に来ている単衣ひとえふところに右手を突っ込んで、左胸の辺りの湿疹しっしんを強くむしりました。


「おお、酒が有った有った。最後の一瓶。」


 おまさがかわや木戸きどの裏で、どんなに辛い思いをして居るのかなどは知りもせず、正太郎は土蔵どぞうの隅から茶色の瀬戸物せともの酒瓶さかびんを一本見つけて、嬉しそうに権三ごんぞうにこう言いました。



明日に続く

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