其ノ十五 朧月夜の君

 その貴人きじん腰掛こしかけに座られますと、私は絞ったさらし木綿で、その方のほおひたいに着いているすすを拭き取って差し上げました。


 するとどうでしょう。そのお方の見覚えの有る印象的な大きな瞳や長いまつ毛、まさしくいつぞやの、お城できゅう治療をした際にお見掛けしたお志麻しま方様かたさま御息女ごそくじょ、源氏物語の朧月夜おぼろづきよきみに憧れていらっしゃった、まごうことなくその姫君だったので御座います。


「あ、姫様、あなたは……?」

 と声をお掛けしようとしたその時、


「おうい! お優、あちらの大火傷おおやけどした患者様の出血が酷いようだ。行って差し上げなさい。私もすぐ行く。」

 と先生に呼ばれましたので、姫君の治療は春庭様にお任せし、私はその重症の患者様の方へ駆け付けたので御座います。



明日に続く

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