其ノ二十六 艾

嗚呼ああ、大名の娘って、何てつまらないのかしら。せめて、卯月うづきにお父様がこちらへお立ち寄りになった時に催される花の宴のよいにでも、朧月夜おぼろづきよの君の様な素敵なことが、私の身に起こったら良いのに。ねえ、さと姫」

 姫君は大きな瞳から伸びる長いまつ毛を伏せて、御手に抱いて居る愛猫のさと姫を撫でながら、このように呟きました。


「しばし、失礼して」

 私はもぐさが足りないのに気付き、こう言って、追加のもぐさを取りに行こうと化粧けしょうを退出し、先生のいらっしゃる控えの間の方に、別の入り口から入って行きました。


 その時の先生は案の定、御簾みすの向こうから聞こえて来る、闊達かったつな姫君とその母君様とのよしあるやりとりに感心して、もの言いたげにしきりにうなづいていらっしゃるご様子だったので御座います。



次章に続く

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