其の二十六 おほかたに

 嗚呼ああ、他の皆様のような穏やかな気持ちで、この春庭様の花の様なお姿を拝見するのであれば、つゆほどの心のまどいもなく、賞賛することが出来たことでしょう。


 玲姫れいひめ様は涙を人に見られまいとして、思いを胸に閉じ込めるように、源氏物語の藤壺ふじつぼみやが、花のうたげで源氏の君をご覧になった場面のこの歌を、心に思い浮かべられました。


 おほかたに花の姿を見ましかば 露も心のおかれましやは


  のちに大大名だいだいみょう貞淑ていしゅく御簾中ごれんじゅうとなられた玲姫様は、この歌と春庭様が本日お詠みになった歌を、生涯深くお心に刻まれたことを誰にもお話しになってはおりませんが、このお話が後に、人々の口のに上ることになってしまったのは、どうしてなのでしょうか。



 第二帖 花宴 完

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