裏切りの女サムライ ジェンマ・ダミアーニ

 イラストからして、目から上の造形がわからない。ローブから三つ編みに結んだ銀色の髪が出ている。


 キンバリーは、この女性なら知っているという。


「この方は、ジェーン・ミリアムさんですね」


 最近登録した魔術師で、いきなり高レベルでサムライ職に転職したそうだ。


「そんなしゃれた名前じゃありませんよ。見てください、シーデー。手の甲に紋章が! 彼女はまさしく、ジェンマ・ダミアーニで間違いありません!」


 サピィが目の色を変えた。言葉の怒気がすごい。


「ほう! まさしくあの女狐ですな!」


 シーデーも、サピィと意見が一致した。


「お聞きしますが、トウコさん。彼女の杖ですが、仕込み杖ではありませんでしたか?」

「あー、おう! 確かに。油断した仲間が一刀で背後からバッサリされたぞ!」


 杖に偽装した刀を、ジェンマという魔族は得物として使用するという。


「そういえば、あのクモ女も死に際に、ジェンマの名を叫んでいたな?」

「はい。世界有数の魔族令嬢です」


 ジェンマ・ダミアーニは、落涙公と敵対する貴族である。

 純血思想が強く、魔物からのし上がった魔王を許していなかったらしい。

 あるときお茶会に呼ばれたジェンマは、サピィの眼前で落涙公を斬り捨てた。


「特に彼女は、自分の父親と私の父が同じ身分であることを、嫌っていたそうです。父親同士の仲がよかったので、ジェンマは勘当された、と旅先で聞きました」


 つまり、後ろ盾がない状態だというわけか。それでハンターとして身を隠していたと。


「そんなヤツと、クリムは組んでいたのか!」


 悔しさのあまり、トウコは拳で床をぶち抜く。 


「手配書を出しておきましょう」


 協定により、ハンター同士の衝突はご法度だ。【ハンターキラー】と呼ばれる戦闘行為は、ハンターギルドからの追放も考慮される。


 ただし、非合法の闇ハンターや、相手が指名手配されているハンターの場合はその限りではない。ことの次第では、その場での抹殺さえ許される。


 俺は以前、黒い虎の格闘家と戦ったが、お咎めなしになっている。


「もうひとりは、顔がよくわからなかったな」


 ジェンマの隣りにいる人物は、長身の魔法使いだ。昆虫というか、カブトムシに近い。背丈に近いサイズのグレートソードを担いでいる。


「この装備は、セットアイテムか?」


 コナツが「見せてみろ」とイラストをひったくった。


「違うな。これは……今まで扱ってきた装備品の、どれとも違う。オレだって、虫の外骨格を素材にしたアイテムなら作ったことがある。でも、こんなの見たことねえ」


 今度は、シーデーがイラストを指差す。


「ランバート殿。こいつは我と同じ【フォート族】です」


 レア装備や魔物の外郭などを、フォート族の身体に埋め込んでいるらしい。


「なるほど。フォート族を魔物に改造したのか。道理で見抜けねえわけだ」


 フォート族なら、金属製のボディを生かした格闘術に長けている。魔法使いながら肉弾戦ができてもおかしくはない。


「しかも、彼のボディは一から作られています。いわば、フォート族の亜種。フォート族の名残があるとすれば、頭だけでしょうな」


 頭部以外、すべて新しく作り変えたとは。


「フォート族のハンターで心当たりは?」


 受付嬢は、首を振る。


「現在、フォートは五〇〇名が登録していますね。ですが、こんな出で立ちの人物は知りません」


「となると、闇ハンターの可能性があるな」


 企業や王国が裏で飼いならしているハンターを闇ハンターという。魔族も、このハンターを使っているとか。


 女ドワーフが、「あっ」とイラストを指差す。


「イラストのフォート族さあ。頭がマッケランそっくりじゃね?」

「そうね。この魔法使い、よく見るとマッケランだわ。でも、身体がぜんぜん違う」



 マッケランという魔法使いは、二人の仲間だった。しかし、真っ先にデーニッツの手で殺されたという。

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