新たなる仲間
たしかに、ちょうどソロになったところだが。
「あなたはレアアイテムがほしい。我々は、力を蓄えている間は目立ちたくない。お互いの利益にもなると思います」
うれしい提案である。正直、ソロでどこまで回れるか謎だった。
限界も早かっただろう。とはいえ、仲間はできそうにない。
そこに、十分すぎるほどの力を持った魔物が、協力者として名乗り出てくれた。レアが出なかろうと、文句を言わない相手が。
飛びつかない手はない。
「私も、レアアイテムをドロップする力はありません。ですが、レアに匹敵するアイテムに化けるアイテムならゲットできますが?」
「ああ。期待できる。あんたらさえよければ、力になろう」
しかし、いいのだろうか。
「本当に、俺でいいのか? 俺より強いやつなら、ごまんといる。紹介してやってもいい。なんせ俺は――」
俺は、疫病神と言われるほどの……。
と言いかけて、サピィが口を開いた。
「あなたがいいです」
サピィの金色に輝く瞳が、決意のような輝きを放つ。
「ギルドに依頼をしようとして、ハンターの言葉が耳に入りました。あなたは、ハンターたちからは『疫病神』と言われているそうですね?」
みんな、
「せっかく命をかけたのに、良質なアイテムが出なかった場合のデメリット」
を勘定に入れた会話をしていたそうだ。
「あんた、聞いていたのか」
「はい。レア装備が手に入らないからと言って同業者を見捨てるような方々に、背中は預けられません」
ギルドに関わろうとしなかったのは、そのためか。
「見捨てられた者同士というのも変ですが、なにとぞよしなに」
「おう。よろしく頼む」
俺は、サピィと握手をした。
「あんたも、よろしくな。もし役に立たないと判断したら、後ろから撃っても構わない」
機械じかけの老紳士であるシーデーにも、手を差し伸べる。
「いやいや。感謝いたす」
照れながら、シーデーが会話に復帰してきた。さっきまで、フルーツを片付けるのに夢中になっていたが、満足したようで何よりである。
となれば、あとは行動方針である。
「どうにか現在のさばっている魔王に、一矢報いることはできぬじゃろうか?」
「あまり考えすぎないほうがいいぜ、シーデー」
復讐は、得策ではない。見返りがなさすぎるのだ。たとえ勢力を盛り返したとしても、また同じことの繰り返しになる。
「ではランバート殿、我々はどうしろと?」
「とりあえず、鍛錬ついでにここのダンジョンでも潜るか?」
サピィが、目を丸くする。
「それだと、現在の魔王に気づかれませんでしょうか?」
「気づかれてもいいじゃん。発覚したとして、『私はハンターにまで落ちぶれました』とでも思わせておけばいい。能あるタカはなんとやら、っていうだろ?」
「なるほど、油断させるのですね?」
そういうことだ。相手にこちらの動向を探らせず、パワーアップしていけばいい。
「俺も、自分の力を試したい」
ある程度深い場所まで潜れば、それなりの敵にも出会える。自分の力を知るいい機会だ。
「魔王に発見されたら、どうします? この街を離れるタイミングは?」
「最下層のフロアボスを倒せるくらいのときで、いいだろう」
どうせ奴さんは、こちらを敵と見なしていない。
亜種とはいえ、ゴブリンやオーガなんかに追跡させているあたり、相手の探知能力はザルだ。
サピィと他の魔物なんて、見分けがつかないだろうし。
「とにかく、契約成立だな」
「では、端末に登録しておきましたので」
ギルドカードを確かめると、たしかに仲間の欄に「サピィ」と「シーデー」の名前がある。
「仕事が速いな。ならば、俺はサピィに雇われるという形でいいんだな?」
「当面は。できれば、対等がいいかなとも」
「よせ。初対面の人間を信用すべきではない」
「慎重な方ですね。その割に、我々を信用してくださいましたが?」
そう言われると、弱い。
「さ、さて、俺は寝るかな。詳しいダンジョン巡りは、また明日な」
自分の部屋に戻ろうとする俺を、サピィが引き止める。
「待って! 路銀をお渡ししますね」
「必要ない。報酬は、十分いただいた」
ジュエルも俺のものになるなら、無報酬でも平気である。
「わかりました。おやすみなさいませ。ランバートさん」
「待った。『さん』はいらん」
「ではランバート。いい夜を。フルーツごちそうさまでした」
「おう。またな」
ドアを閉めようとすると、サピィが俺の手を握ってきた。
「本当に、ありがとうございました」
「いや。なに。俺の方こそ」
部屋を出てすぐ、俺はフロントへ向かう。ルームサービスの代金を払うためだ。
自分の部屋へ戻って、一息つく。
「おっと、シャワーを浴びるか」
ひと風呂浴びて、ベッドに転がる。
ようやく、俺にも強い装備が手に入りそうだ。
新しく手に入れたブロードソードを抜き、眺める。
興奮して眠れないとか、子どもかと。
しかし、こんな緊張したのも久しぶりだ。また、こんなにも長くまともに女性と会話したのも。
いいや。むしろ、初めてだろう。
俺は女に対して奥手だった。
なのに、サピィとは気軽に話せる。魔物だからだろうか。
「まあいいか」
とにかく仲間が、新しい友人ができた。
その喜びを噛み締めながら、俺はまぶたを閉じる。
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