フィーンド・ジュエル

「私は、デーモンロードの一族『落涙公』。またの名を、フレキシブル・ドロップ・ルーラー第一王女です。父は五代目落涙公であるギヤマン・フォザーギル。亡き父の跡をつぎ、今は私が六代目を襲名しています」 


 この世界に数名存在する魔王の一人、落涙公。サピィはその忘れ形見だと語る。


 ギヤマンダイヤモンドに、サピロスサファイアか。


 サピィの家は、古くから代々伝わる名誉ある魔王の一族だった。


「ですが、敵対勢力によってとうとう滅ぼされてしまったのです」


 魔王が死んだことで、サピィたちもほとんどの力を失ってしまったらしい。魔族の割に力が弱かったのは、このためか。


「我の紹介がまだでしたな。我は魔王の執事でした。落涙公爵以外に従うつもりはなく、姫の逃亡を助けました。しかし、ほとんど対抗できる力もなく。我に力さえ戻っておれば、オーガ程度などに遅れは取らぬのじゃが」


 膝を叩き、シーデーが悔しがる。


「それであんたらは、自分たちの勢力を取り戻すために、逃げながら戦っていると?」

「はい。先程の戦いも、追手をまくために」

「追手の割には、さして強くなかったな」


 亜種とはいえ、舐めプもいいところだ。


「誰一人、我がフォザーギル家を驚異と思っていません。実に歯がゆい思いです」


 よっぽど、ワンマン魔王だったんだろうな。


 おそらく、敵対勢力は本気で殺しに来ていない。単なる脅しの可能性がある。多分、「お前たちはこんな小物すら撃退できないのだ」とわからせるために用意したのだろう。


「ところで、これなんだが。心当たりはないか?」


 オーガたちからドロップした魔法の宝石を、サピィに見てもらった。落涙公の伝承が本当なら、何か知っているはずである。


「あっ、それこそ、我々落涙公のスキル【魔輝石フィーンド・ジュエル】です!」


 目をキラキラさせながら、サピィは解説してくれた。


 魔物を倒すと宝石が手に入るという伝承は、本当だったらしい。


「これを集めていけば、あんたらの力が戻ると?」


 予測を立ててみたが、サピィは「違います」と言う。


「そうではないです。我々は、魔物を倒せば力がその身に宿ります。つまり、我々は魔物さえ倒し続ければ、いずれは力を取り戻せます」

「では、この魔石はいったい?」

「我々は魔族の持つ魔力を、外部へ取り出せるのです」


 落涙公の血統が近くにいると、倒したモンスターは魔力のこもった宝石を落とすという。それがフィーンド・ジュエルだ。


「魔物が落とす魔石との違いは?」

「あれはいわば、モンスターの核です。鉱石に近いですね。ジュエルは魔石より遥かに、魔力の純度が高い宝石です」


 フィーンド・ジュエルを他の魔物に与えて、使役することもあるという。


 ただし、狙ったタイプの宝石をなど、自分ではコントロールできないらしい。


「ゴーレムやスケルトン、またシーデーのようなフォート族も、フィーンド・ジュエルで動いています」

「逆に言えば、それが原因であんたらは消されそうになったと」

「はい。父は実際、そうでした」


 落涙公は、その力を疎まれて殺害された。

 彼のような魔物がいれば、魔族たちの力が奪われてしてしまう。


「あんたの命も危ないと」

「私はまだ力が弱いので、そこまでは」


 とはいえ、成長すれば危険が及ぶかも知れない。


 こんな大事なものを、武器にはめ込んだのか。


「で、これはどうすれば。お返ししたほうが」


 俺は、ブロードソードごと宝石をサピィに差し出した。


「差し上げます。それはあなたのものです」


 サピィは受け取ろうとしない。


「こんな貴重なもの、いただけない! 形見みたいなもんだろ?」

「それは、あなただからです」

「なんだって?」

「あなたのような優しいお方だから、我が力の結晶をお使い願いたい」


 聞けば、魔物や魔族を倒せばジャンジャン出てくるという。

 後生大事にする代物でもないそうだ。


「いいんだな? そんな大事なもの、俺が私物化しても」

「あなたなら、信用できます。積極的に活用してくださいませ」


 ここまでの信頼が、どこから湧いてくるのかわからない。

 が、ありがたくいただいておく。


「よかった。あんたらに帰さないといけないのではと思ったぜ」


 ただ、おかしい点もある。


「どうして、俺にこんなアイテムが拾えた?」

「我々と接触するだけで、影響が出たのでしょう」


 サピィのスキルが発動できる範囲に、俺がいたからではないかという。


 だが、俺が聞きたいのはそこではない。


「コイツはいわゆる、レアアイテムだ。俺がいくらやっても、ドロップなんてしなかったのに」


 レアアイテム欲しさに、どれだけのモンスターを狩ってきたか。


「物欲センサーなどという人間の呪いなど、落涙公に通用しませんよ」


 魔王だもんな。人間の影響などは受けないのだろう。


「レアイテムなどでは、ありませんわ。フィーンド・ジュエルは、私がドロップしたもの。私が戦えば、普通にドロップします。剣や銃のようなレアアイテムは、私もお目にかかったことはありませんわ」


 たしかに、二人の装備はお世辞にも豪華とは言えなかった。身を隠すためなのかも知れないが。


 フィーンド・ジュエルを手にして装備を強化することは、他の魔王勢力を牽制することにも繋がる。どんどん奪っていいそうだ。


「そうだわ。いっそ仲間として、一緒に戦っていただけませんか?」

「俺が?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る