1-2 変質したダンジョンを、殴りに行きます

サービスカット?

 翌朝、俺はサピィたちの様子を見に、部屋をノックした。


「おう、ランバート殿。こちらへ」


 シーデーに、部屋へと通される。

 だが、肝心のサピィが見当たらない。


「サピィはどこだ?」

「現在、ご入浴中ですじゃ。お洗濯もなさっておいでですぞ」


 朝のコーヒーを飲みながら、シーデーが語る。


「我がやりますと言っても、ご自分の習慣だとかで、手伝わせてもらえんのですじゃ。まったく、何のために執事がおるというのか」


 仕事をさせてもらえないのは、執事としても傷つくのだろう。俺にはよくわからんけれど。


「ご覧になりますかな?」

「はあ!?」


 ちょっと待て。いきなり自国のお姫様のサービスシーンを見ろなんて、大胆すぎないか?


「驚かれることもありますまい。魔物が入浴しておるだけですぞ。何も不思議ではござらん」

「不思議だろうが! どこの世界に全裸の女を堂々とガン見して平然としていられる男がいるんだよ!?」

「いやいや。一度ご覧になられた方がよろしいな。姫様、失礼を」


 なんとシーデーは、サピィの入っている風呂のカーテンを開けやがった!


「わあ……ああ?」


 一瞬だが、異様な光景が目に飛び込んでくる。



「ごうん、ごうん、ごうん……」



 泡まみれの丸い物体が、カーテンの向こうにいた。


 人間サイズのスライムが、バスタブでくつろいでいる。

 自分で洗濯機のような音を立てながら、衣服を体内に取り込んで洗っていた。

 たしか、サピィってスライムだったよな。

 初対面が人間体だったから、すっかり忘れていたが。

 こうしてみると、本当にスライムなんだと実感する。



「あー、ランバート。おはようございます」


 デカイ金色の目が、俺を見た。

 丸裸を見られているというのに、あまりリアクションがない。


「ああ。おはようさん」


 絶句したまま、俺はサピィとあいさつをかわす。


「それが、お前さんの正体ってわけか?」

「人間体も魔物体も、どちらも私には変わりありませんわ」


 サピィが言うには、人間体はいわゆる「お化粧」なのだそうな。人前に出るときは人間に、リラックスするときは、スライム状態になるという。


「なるほど。お前さんがスイートルームを取っている理由がわかったぜ」


 他の部屋は、開ける前にノックなんてしない。ノックと同時に部屋を開ける従業員もいる。


 部屋にいる巨大スライムを見たら、従業員は速攻で通報してしまうだろう。


「私はそれなりの身分なので、お肌のお手入れは欠かせません」

「洗剤とか口に入れて大丈夫なのか?」


 洗濯物用の洗剤も、体内に入れているはずだ。体調が悪くなってしまわないのだろうか?


「特には。洗剤はボディーソープと併用できますし。ここのシャンプーは歯磨き粉の味がして、うがいをするときにマイルドなのです」


 普通の人間は、うがいにシャンプーなんか使わねえよ。

 推しアイドルの使ってるシャンプーを飲むイタいファンじゃねえんだぞ。


「体内では、各種洗剤は一応分離しているんだな?」

「はい。スライム体なら、誤嚥の心配もございません」


 そういう問題じゃない。


「あー、サッパリしましたわ」


 スライム状態のまま、サピィがバスタブからあがる。シャワーで体中の泡を落とした。


「着替えどうするんだよ?」

「こうします、えいっ」


 そのまま、サピィは人間の姿に戻る。服も装備品も、魔法でスッキリと乾いた。


 上着はノースリーブのレオタードである。単なるレザーのように見えたが、魔獣の革を使用していた。左半分は、肩から指まで守る籠手を装備する。

 ドレスは、太ももが露出するほど破ってあった。動きやすさを求めたのであろう。ドレスの下は、ショートパンツ型の青いアンダースコートだ。太ももに、護身用ハンドガンのホルスターがくくりつけられている。


 昨日はフードを目深にかぶっていたのでよくわからなかった。


「あ、もうそろそろ朝食の時間ですね。またルームサービスにします? それとも宿の食堂にしますか?」

「外でどうだ、っていわれてもな。角はどうするんだ?」


 魔族が街を出入りしているのを目撃されたら、それはまずいのでは? 角を見られなくないから、フードをしていたのかと思ったが。


「こうします」


 サピィの角が、小さな髪飾りに変わった。

 威厳ある魔族の角が、愛らしいアクセサリへと変貌を遂げる。


「街へ出るときも、こうしているのです。変化魔法は魔族でも一般的で、さほど魔力は使わないんですよ」


 目立ちたくなかったことと、髪が汚れるのを嫌って、フードを被っていたらしい。


「この部屋でも、变化を解いていたが?」

「私が魔族であることを、あなたに知ってもらいたくて」


 とっさの状況だと、变化も使えないのだとか。


「ならば、どちらでも構わんぞ。落ち着いて食いたいなら、部屋だけど」

「では、お外で朝ごはんに致しましょう」


 外出し、俺たちは近くのパン屋で朝食にした。市場で食糧などを買い込み、ギルドへ。


「ランバート様、登録の更新を確認しました。サピィ様とパーティを組んだようですね」

「そうなんだ。依頼はあるか?」

「ミノタウロスの角くらいですかね?」


 薬局からの依頼だな。ミノタウロスの角といえば、万能薬だ。毒回復の治療薬としても役立つ。


「第三階層だな? わかった」

「お気をつけて」


 依頼を受諾し、ダンジョンへ。

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