枸櫞《くえん》の魔女 ソーマタージ・オブ・シトロン
サドラーはペールディネの真下だ。
しかし、ペールディネ大陸が広くて、なかなか辿りつけない。
「フェリシアさん、あなたはかつて、魔女に育てられたと言っていましたね?」
「そうよ。雷の魔法が得意だったわ」
「雷使いの魔女と言うと、『
サピィが、国王に質問をする。
「よくご存知ね?」
「伝説だけは。千年近く生きているエルフだそうで。かつて、魔王ダミアーニ公も手を焼いたと」
人と魔族との争いに知恵を貸し、何度もダミアーニ側の作戦を潰したそうだ。
「何より、
「ということは、彼女も魔族の血を引いている?」
「はい。彼女はエルフであり、魔族です。いわゆる、ダークエルフですね」
天使に近いものをエルフ、魔族に近い存在をダークエルフというらしい。
クエンの魔女は魔族側でありながら、人間に手を貸していたのか。
「中康の立場だったのです。人と魔族のバランス重視ですね」
人間の味方をする魔族たちに、
「具体的には、どんなジョブなんだ?」
「隠された秘宝や情報を探ったり、敵の弱点や隠れ場所を見つけたりですね」
魔族は狡猾だ。正攻法で勝てる相手ではない。
からめ手を使う輩を相手にする。
そのため、クエンの魔女はマギ・マンサーというジョブを作ったのだ。
「理由がすごくて、『それくらいないと、人間は勝てないだろうから』って」
魔族の中でも、相当の変わり者だったらしい。
「そんな伝説の人物と、よくツテがあったな?」
「ペールディネは、激戦区だったらしいから」
以前の文明が残っているのも、ペールディネの軍事力が高かったからだそうだ。
「だから、フェリシアはあんなにも強かったのか」
「このハンドキャノンは、そのとき手紙とともに託されたものよ」
フェリシアが見せてくれたのは、リボルバータイプの拳銃だ。
といっても、規格外に大きい。
陶芸品のような光沢の銃身に、金色の装飾が施されている。
魔力が微量ながら流れているようだ。
「銃の名前は、
フェリシアが苦笑する。
俺は、ハンドキャノンを触らせてもらった。
敵意がないため、
片手で持つのがやっとの重さだ。
「大きいな。それにこれは、アーティファクトじゃないか」
「でも、動力がわからないの」
たしかに、薬室に弾が入っていない。
というより、弾丸を入れる場所がなかった。
「この手の銃って、魔法を込めるんじゃないのかー?」
「試したわ」
トウコが聞くと、フェリシアはそう答える。
「でも、ダメだった。魔力を注ぎ込むタイプじゃないみたいなの」
なにか、薬室にモノを入れるのだろう。
それがなんなのか、わからないが。
「悔しいわね。認めていないって意味なのかしら?」
銃を手で叩きながら、フェリシアは考えを巡らえているように見えた。
「魔女に直接、聞かなかったので?」
「もういなくなった後だったし。手がかりも何一つ残さず、キレイサッパリ行方をくらましたわ」
ちょうど、今のルートを辿れば跡地に着くという。
「あそこよ」
窓から顔を出し、フェリシアが指をさす。
草原の中に、小さな森があった。
異様なのが、俺にもわかる。
この環境下で、その森は明らかに不自然な発生の仕方をしていた。
ドーム型の透明な半円で覆われているのもおかしい。
「生えている木が、外とぜんぜん違うぞー」
「動物も、違っているようですな」
トウコとシーデーが、同じような感想を述べる。
「魔女の館というより、実験場を思わせるな」
生態系もまるで違う。
サピィが、森の奥を指差した。
「一度、寄ってみませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます