魔女の小屋

 フェリシアは、サピィの提案に遠慮がちだ。


「いいけれど、何もなかったわよ?」

「マギ・マンサーにはマギ・マンサーです。行ってみる価値はあるかと」

「そうだったわね。じゃあ、行ってみましょう」


 馬車は、辺鄙へんぴな森の前で足を止めた。


「入口があるな」


 馬車が通れ来るくらいの、門がある。

 閉じてはいない。誰でも受け入れるつもりはあるようだ。


 しかし、草原の虫さえ入っていく様子はない。

 明らかに生態系がおかしいと、察知しているようだ。


「俺たちだけで行く。トウコとシーデーは、馬車を見張っていてくれ」

「おー。気をつけろー」

「危なくはないと思う。だが、警戒は怠らないでくれ」

「わかったー」


 トウコたちを残し、三人で森の中を進んでいく。


「空気が済んでいるな」

「他に、誰かいるのでしょうか?」


 サピィは言うが、人の気配は感じない。人工的な森ではあるのだが。


「こんなところで、修行していたのか?」

「そうよ。幼少期は、こういう環境が自然だと思っていたわ」


 外に連れ出されるまで、フェリシアはずっとこの世界で暮らしていたという。 


「あそこよ」


 そんなに遠くない場所に、魔女の済んでいた小屋はあった。


「トラップはありません」


 鍵すら、かかっていない。誰でも出入りできるようになっていた。

 とはいえ、歩くと足元にホコリが立つ。誰も入った形跡はない。


「魔女の威厳そのものだけで、人払いをなさるとは。この世界から感じるのは、恐怖でも脅威でもなく、ただただリスペクトです。森の動植物たちは、魔女を信頼なさっていた」


 そこまで、魔女は偉大な人物だったのだろう。


「書斎は、ここよ」


 フェリシアの案内で、書斎へ。


 しかし、これといってめぼしいものはなかった。


「なにか感じるか?」

「お待ちを」


 深く呼吸しながら、サピィはマギ・マンサーの力を発揮する。


「隠し扉が、ありました」


 サピィがベッドに手をかけた。


「手伝うわ」

「俺も」


 フェリシアと俺も協力して、ベッドをどける。

 その後、じゅうたんをひっくり返した。


 確かに、地下の物置小屋へ通じるような入り口がある。


「ここです。この下に何かがありますね」

「ウソ。私が調べたときは、土で埋まっていたわ」

「はい。このとおり」


 フェリシアの言う通り、入り口は石ころで埋まっていた。


「地下があるという、目星はついていたんですね?」

「ええ。でも、空振りだったのよ」

「そうですか」


 なおも、サピィは何かを感じ取っている様子だ。


「ですが、この下に空間があるのは事実です」

「ホントに?」

「お任せを」


 サピィが、盛られた土と石に魔法をかける。


 ひとりでに、石ころが階段へと姿を変えた。


「すごい。階段ができたわ」

「魔術師でなければ、入れない仕組みだったようですね」


 石製の階段を降りていく。


 そこには、先程の書斎を更にコンパクトにした部屋が。


「こんな場所があったなんて、知らなかったわ」

「おそらく、魔女にとって本当の書斎だったのでしょう」


 魔術師にしか入れない部屋だったと。


「クエンの魔女は、この書斎で何を?」

「例の武器の開発だったんじゃないか?」


 木の棚を見ると、銃の設計図があった。

 銃のスケッチにしては、随分と大きい。


「相当、力を入れて作ったように見えるな」


 しかし、肝心の薬室は、見つからない。

 設計図を見ても、そこだけ空いているのだ。


「無駄足だったか」


 キツネにつままれたような気分がする。


「魔女の館なんて、こんなもんよ。帰りましょう」


 諦観を込めて、フェリシアが戻ろうと促してきた。


「ですが、この図面があれば、コナツさんなら何か解明できるかも」

「ああ。コナツは、銃も作れるからな」


 せめて設計図だけでも持ち帰ることに。


 小屋から、トウコたちのいる馬車へ。




「おおー。帰ってきたぞー。おーい」


 戻ると、トウコたちが見知らぬ老人から果物を食わせてもらっていた。

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