ポーションプラント

「というか、なんだこれは!?」


 ドームの森から少し離れた場所で、ヴァイパー族の死体が大量にある。


「トラックに乗ったおじいさんがヴァイパー族に追われていたのを見て、助けてやったんだよなーっ! そのお礼だってさ」

「といっても、ほとんどトレントが倒したのですが」


 シーデーが指差した先に、白い軽トラックが駐車してあった。

 その上に、大きな大木が横たわっている。

 よく見ると、呼吸をしているように膨らんだり縮んだりを繰り返しているではないか。


「あれがトレントです」

「彼が、ヴァイパー族からこのご老人を救ったと?」 


 トレントは、ひとりでに動き出す。

 かと思えば、自分で勝手にドームの中へ進んでいった。

 身をかがめて、ドームの植物と一体になる。


「魔女様が置いてってくれたんだが、いいやつでさぁ」


 年老いた男性が、森と同化したトレントをなでた。

 ランニング姿で、頭に白いハチマキをしている。


「あなたは?」

「魔女様から、この農園を任されてるモンだ」

「では、この果物は?」


 俺は、果物を老人に見せた。


 一見すると、ひょうたんか洋梨に思える。甘い香りがした。


 トウコの食べっぷりを見ていると、みずみずしい様子だ。

 皮も食べられるらしい。


「マッシブフルーツさね。ポーションの原料になるし、味もうまい」


 高級品で、ペールディネやサドラーなど各国の貴族とも取引があるという。


「お前らの分もあるぞーっ」


 トウコが、俺たちに果物を投げてよこす。


「ありがとう。でもいいの?」

「めっちゃ甘くて冷たくてうまい!」


 果物をかじりながら、トウコは感想を述べた。


「ご老人、これをいただいても?」

「ああ、構わんよ。ワシラの育てたポーション用の果物だよって」


 ランニング姿の老人が、白い歯を見せる。


「たしかにうまい」


 強烈に、甘酸っぱい。

 食感が梨なのに、味はベリーに近い濃さだ。

 あと、汁に気をつけなくては。手がベタベタになる。


「よく貴族の網目をくぐってきたな」


 こんなにもうまいなら、食い荒らされてもおかしくないが。


「魔女様が運営に関与してっから、貴族も独占ができんのよ。ヘタに触ると、国際問題になるからよぉ」


 気の抜けた声で、老人は語った。


「わかりました。この森の違和感の正体を」


 木々が、民家を隠しているのだ。村民の家屋の安全に住めるように。


「この木々すべてが、トレントですね。どうりで、他の動物や魔物が近づかないわけです」


 樹木の精霊であるトレントたちが、村民を守りつつ果樹の管理もしている。


 トレントが魔女のアンテナとなっていて、異変があったらすぐに駆けつけられるようになっているのだろうとのこと。

 しかし、魔力の流れが混戦しすぎていて、魔女の元へはたどり着けないらしい。


「しかしのう、ヴァイパー族の数が増えてきて、こっちも危なくなってきたなぁ」

「追われる心当たりは?」


 老人は「いやあ、ないなあ」と首を振った。


「待てよ。この日はたまたまだったんだぁ。誰も寄り付かなくなって寂れた洞窟に、なにか物資をやたら運び出しているのを見たんだよなぁ」


 それを目撃した瞬間、ヴァイパー族が追いかけてきたらしい。


「問い合わせてみるわ」


 フェリシアが、ハンター用携帯端末を取り出す。

 ペールディネのギルドに、そんな洞窟があるか尋ねた。


「確かだわ。打ち捨てられた洞窟が、この付近にあるって」

「行ってみよう」


 俺たちは、老人に別れを告げる。


「また、戻ってきなさい。あの洞窟を攻略しても、当分街はねえ。ウチで休んでいってくれたらええ」

「迷惑にならないか?」

「とんでもねえ。恩人を追い払えるかいってのよ。こちらも、魔女さんの話くらいならできそうだ。あんたらさ、魔女さんの関係者なんだろ?」

「まあ、そうなるかな」


 老人はニコリとする。


「泊めてやんよ。付近のヴァイパーを討伐してくれたら、こちらも助かるし」

「世話になる」

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