闇ギルド結社 χ《カイ》

 俺たちは、洞窟まで近づいた。


 敵に見つからないルートを選択したため、誰にも気づかれていない。


「ヴァイパーの見張りは少ないですね」

「だが、油断はできん」

「あれが、武器類ですね?」


 ヴァイパー族が洞窟へ運び込んでいるのは、剣や重火器である。


「あそこが、ブートレグ製造工場だと見て間違いなさそうだな」


 トウコが見張りを無力化し、全員で天井へ飛び上がった。


「見てください、ランバート」


 サピィが、大量のオミナスを発見する。

 どれも、禍々しい細工を施してあった。


「ランバート、やはり呪いの武器を作っている形跡がありました」


 ここが、ブートレグというオミナスを作っている工場だったか。


「なぜ、ヴァイパー族のアジトで作らないのでしょう?」

「悟られたくないのかも知れないな」


 もしくは、他の魔物たちの協力もあるのだろう。


「誰かがヴァイパーに依頼をして、作らせている?」

「ヴァイパーなどの魔物を、さらに操る者が存在すると?」


 あるいは逆か。魔物が人間を操っている可能性があるわけか。


「とにかく、叩き潰そう」


 相手がヴァイパーだけなら、敵ではない。


「お前たちの好きにはさせん!」


 小規模の洞窟だったため、制圧に時間はかからなかった。


「おらああ!」


 ヴァイパー族の群れを、魔法の刃で切り刻む。


「洞窟を破壊しよう。もうここで武器は作らせない」


 証拠品のオミナス以外を、全て壊す。


「我が計画の邪魔をするのは、何者ぞ?」


 洞窟の奥から、魔術師が現れた。

 術士は宇宙服のようなヘルメットで、顔を覆っている。

 背中に、触手の生えた四角い箱を背負う。

 手には、細い杖を持っている。


「何者だ!?」

「答える必要はないが。そうか、貴様が秘宝殺しレア・ブレイクの使い手。散骨デーニッツを倒した男か。我は闇ギルド結社『χカイ』の首魁、能面ノーメン


 声からすると、中年男性のようだ。

 が、ヘルメットの表面が黒いので、顔の造形や表情はわからない。


「デーニッツを知っているのか?」

「それに答える義務はなし」


 ヘルメットの男からは、デーニッツに匹敵するおぞましさを感じる。


「ここを知られたからには、生かして返さん。唐立からたち!」


 能面が、天井に声をかけると、真上から人影が降ってきた。

 全身を黄土色のウロコで覆った、細身の女性である。

 ヴァイパー族の皮膚を、全身に移植したのか。


「サイボーグ?」


 憎しみの眼差しを、サイボーグが俺に向けてくる。


「期待に答える働きをせよ」

「御意」


 唐立という女性サイボーグが、両手を小さく広げた。

 ジャキンと音を鳴らし、両手の指から金属質の爪が伸びた。


 能面と名乗る魔術師が、赤いポータルを開いて去っていく。


「待て!」


 俺はDディメンション・セイバーを魔術師に撃つ。


 光刃の衝撃波は、魔術師に届く直線で爆散した。

 唐立の爪攻撃に妨害されたのである。


「デーニッツを殺すのは、私の悲願だった。それをお前が!」


 爪とキックによる連続攻撃を、唐立が繰り出す。


「オラオラァ!」


 俺の剣と、唐立の爪が打ち合う。


 しかし、打ち負けている。さすがに格闘戦では、相手の方に分があるか!


秘宝殺しレア・ブレイク、発動!」


 俺は、相手の爪にDセイバーを撃ち込んだ。


 しかし、強靭な爪はセイバーを受け付けない。秘宝殺しで爪がサビつくこともない。


「見よ、秘宝殺し対策に、モンスターの肉体を移植したのだ」


 狂気じみた声を発しながら、唐立が自慢の爪をなめる。


 この女には、弱点がないのか。


「ちいいい!」


 唐立の爪が、俺の頬をかすめた。黒いカビのような毒が、俺の頬から広がりかける。


「アハハ! サムライといえど、所詮はサブクラス! 格闘経験を積んだ私には勝てまい! 毒でさっさと……なにい!?」


 だが、一瞬で浄化できた。


「バカな。毒が消滅した?」


 状態異常耐性を持つ【パール】をアーマーに装着していなければ、俺の身体に毒が駆け回っていただろう。

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