ブートレグ装備の恐怖

 司教らしき人物が、ナイフを振り回して暴れまわっていた。


 ナイフでノドを切られ、レンジャーがイスにもたれて絶命している。


「ヴァイパー族の遺跡から手に入れた武器を鑑定していたら、ああなっちまった!」


 仲間の女戦士が、司教を指差した。


 死んだレンジャーが、ブルブルと振るえだす。


「ゾンビ化しました! 下がって!」


 サピィがハンターたちの周囲に結界を張った。


「任せろ。我に加護をーっ!」


 拳に浄化の光を集めて、トウコがゾンビにパンチを喰らわせる。


 パンチが当たったところから、ゾンビの身体が光の粒子となった。


「シーデー!」

「お任せを!」


 シーデーが、指から麻酔薬を発射し、相手の胸へ打ち込む。


 並の人間なら、これで気絶するはずである。


 しかし、司教におとなしくなる気配はない。なおも暴れ狂う。


「ヤバい。殺すしか」


 司教の仲間らしい戦士が、武器を構えた。


「いや。俺に任せろ!」


 戦士の肩を掴んで、下がらせる。


秘宝殺しレア・ブレイク、発動!」


 俺は、秘宝殺しを剣に込めた。粘り気のある魔力が、武器にまとわりつく。


「目を醒ませオラア!」


 司教の腹に、俺は剣を滑らせた。


 光の刃で、相手の武器とのつながりを切り裂く。肉ではなく、精神を断つのだ。


「ぐうう!」


 もがき苦しみながら、司教が武器を手放す。


 床に落ちた短剣が、一瞬で錆びついた。


 司教は崩れ落ち、仲間たちに支えられる。


 うまくいったようだ。


「あんた、感謝するよ」

「礼には及ばない。しかし……」


 呪いのアイテムを鑑定すると、ああなってしまうのか。


「ブートレグに特徴はないのか?」


 サピィに尋ねてみたが、首を横に振る。


「わたしでも、見分けはすぐに付きません。彼が障ってしまうのも、ムリはないでしょう」


 司教はまだ、意識を取り戻していない。


「目覚めたとしても、彼はもうハンターとしては生きられないでしょう」


 それだけ、リスクがあるということか。


「この武器を、どこで手に入れた?」

「サドラーの領地にあるダンジョンだ」


 ここより大きい、ヴァイパー族の巣があるという。


 どうも俺たちは、サドラーとは縁があるらしい。


「他のアイテムも、見てもらえないか? あんたらの腕なら、アイテムに乗っ取られることもないだろう。図々しいのは承知の上だ。しかし、一番鑑定知識があったやつが、これでな」


 二倍の値を出すのでと、司教の仲間が鑑定を頼んできた。


「お任せください。ブートレグは、我々も探しているので」


 サピィは、アイテムを調査する。


「七割型、ブートレグですね。ここを見ていてくださいね」


 サピィが、柄に指を置く。


 ジャキン! と、柄から牙か爪のような鋭い突起物が。


「この尖った物体が、装備者の身体に突き刺さります」

「すると、操られるんだなー?」


 トウコが聞くと、サピィは「はい」と答えた。 


「ギルド預かりにします」

「助かる」


 どうせ、海賊版では売り物にならない。売っても誰も勝ってくれないからだ。


 使えそうな武器だけを手渡し、ギルドへブートレグを調査に出した。


「絶対に、むやみに触らないでください」と、サピィがギルド員に念を押す。

「サドラーに、怪しい動きがあるか、知らないか?」

「姫様の嫁ぎ先で、ひと悶着あるとしか」


 土地に定着しないハンターが相手では、国の詳しい情報は得られな

いか。


「そういえば、サドラーの大臣が夜な夜な街の酒場を出入りしているらしい。あそこは盗賊団のアジトらしいが」


 では、繋がったか?


「問題がありますね。ランバートさん、調査願いますか?」

「もちろんだ。そのためにサドラーへ行く予定だったんだ」


 ギルド員の依頼を、受諾する。


「フェリシアさん、危険な任務になりますが、共に行動願えますか?」

「国の一大事なんでしょ? 手を貸すわ!」


 俺たちは機動馬車をギルドから借りた。


 目指すは南の国、サドラーである。

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