海賊版《ブートレグ》

「ブートレグ、とは?」

「人為的に作られた、レアアイテムです」


 一言でいうと、レアの廉価版だという。


「他のレアとの違いは?」

「こちらをよく見てください」


 柄や鞘、石突の部分を、見えるように近づけた。


「よく見ると、魔物の牙や爪が取り付けられているな!」


 大声で、トウコが指摘する。


「わたしのフィーンドジュエル装備と、構造は同じです。しかし、こちらは呪われたアイテムです」


 他のレアとの大きな違いは、明らかな悪意を持って製造された点だという。


「これには、ヴァイパー族の爪や牙、目などが利用されています」

「ヴァイパー族が、作ったというのか?」

「はい、ランバート。ヴァイパー族は、武器製造にも長けているそうですから」


 ペールディネを狙っていた魔物も、ヴァイパー族である。


「オフェーリアを連れ去ろうとした盗賊は、ヴァイパーと繋がっていたというのですね?」

「そう考える方が、自然かと」


 おそらく何らかの理由で、ヴァイパー族がブートレグを盗賊たちに与えて手駒にしたと。


「ヴァイパー族に目をつけられるようなことで、お心当たりはありませんでしょうか?」

「我々からは、どうも。しかし、考えられることが……」


 首を横に振った後、思い出したかのように国王が身を乗り出す。


「先程話したエルトリ国は、ヴァイパー族の巣に近いのですね」


 エルトリには大きな沼に囲まれた神殿があり、根城になっているという。

 攻略しようとも、エルトリの戦力では難しいそうだ。


「エルトリとヴァイパーは、長年敵対しています。彼らがヴァイパーと繋がっているとは考えにくいかと」


 たしかに、エルトリは先代王から屈辱を受けている。

 だからといって、敵と手を組むほどだろうか、と。


「エルトリとペールディネの関係はわかりました。サドラーとはどういうご関係で?」

「サドラーのヒルデ王女とはお会いしましたね? エルトリ国から、縁談を持ちかけられています。しかし、そちらは大臣側の提案でして」


 国王は、友好関係のある、南東のヒューコという国と繋がりたいそうだ。ヒューコとエルトリとの間に、サドラー小国は位置している。


「ヒューコなら、ペールディネと因縁はありません。ヒルデ王女も、ヒューコとの交流を望んでいます。あちらは食料が豊富ですし。しかし、大臣側は軍事を固めたいと」


 ゆくゆくは、ペールディネを攻め落としたいと考えているらしい。


「大臣は、ペールディネと怨恨が?」

「お話ししたエルトリ王妃が、大臣の娘なのです」


 大事な娘を傷物にされ、頭にきていると。


「エルトリ国王は、どういうお立場で?」

「正妻である王妃とは、離縁しました。元々、二人に愛情はありませんでしたから。王はどちらかというと、側室と仲がよくて」



 側室との間に継承者ができて、正室はますます地位を追われた。



「怒っているのは、むしろ大臣の方なのです。自分の地位も、怪しくなったのですから」

「だとしたら、妙ですね」


 アゴに手を当てて、サピィが考え込む。


「どうして賊は、ヒルデ様とオフェーリア様を間違えたのでしょう?」


 サピィが疑問を投げかけた。


 そういえば、そうだ。

 大臣がけしかけたなら、ヒルデを襲うだろうか?

 恨みがあるとすれば、オフェーリアことフェリシアだろう。


 騎士の一人が、盗賊を尋問した経緯を報告しに来た。


 賊を調べたところ、謎の男から「ヒルデをオフェーリアだと指示された」らしい。


「敵の目的が、オフェーリア様ではなく、ヒルデ様だとしたら?」

 カーティス王が、玉座を握りしめた。



 ひとまず、サドラーに向かったほうがいいだろう。

 機動馬車を借りるため、ギルドへ。


 しかし、ギルドで一人の老人が暴れだす。


 ギルド作業員が騒ぐ。


「大変だ! 鑑定士が発狂した!」

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