フェリシアとオフェーリア

 カーティス・ペールディネ国王は、先代王コンラッドの話をする。


「先代国王コンラッドは、みだりがましい人物でした」


 コンラッド前王は、南西エルトリ国の王妃と通じ合っていた。よりによって正室と。


 エルトリ王は、側室とは恋愛感情はあったが、正室とは仲が悪かった。

 子宝に恵まれなかったのは、浮気症のエルトリ王のせいだと考えていたのである。

 で、自分もやり返したのだ。

 王妃が枯れ専であることも、浮気心に拍車をかけた。


 コンラッドとエルトリ王妃との間に産まれた子が、フェリシアことオフェーリア王女だという。


「当時は、相当にエルトリと衝突しました。なんてことをしてくれたのだと。しかし、両名とも『子どもには罪はない』と、その子の王位継承権を剥奪することで、強引に解決させました」


 しかし、オフェーリアはどちらの王都にも置くことができない。

 かといって、一般人に溶け込めるはずもないだろう。

 最悪の場合、政治利用されるか殺されるか。

 そんな暗い人生しか、オフェーリアには待っていなかったのである。


 仕方なく、コンラッド先王は知り合いだった魔女にフェリシアを弟子入りさせた。半ば厄介払いで。


「その魔女はたいそう変わり者で、フェリシアを猛特訓の末に魔法剣士として育てました。一人でも生きていけるように、と」

「だからといって、女君主ローデスクラスまで鍛えるとはな。並の人間でも音を上げるぞ」


 女君主ローデスの称号は、騎士としての最高位だ。

「そういうもんなのかーっ、ランバート?」

「ほとんどの人は、才能があっても君主ロードにまではなれないからな」


 せいぜい、ひとつ下の聖騎士パラディン止まりである。


「詳しいわね?」

「俺の友人が、その聖騎士パラディンなんだ」


 クリムは、魔銃使いの聖騎士だ。

 といっても、その気になれば君主になれそうだが。


 どうやら、その魔女は相当に腕が立つらしい。


「さんざん私を鍛えた後、その魔女もどこかへ旅立ってしまったわ」


 もう教えることはなにもない、と書き置きを残して。


 今のペールディネ王カーティスは、居場所をなくした妹のオフェーリアを保護しようと思った。


「とはいえ、事情を知っている一部の大臣たちは、彼女がこの地にいることを快く思っていません。穢らわしいと」

「なんてヤツらだ!」


 トウコが憤る。家族思いのトウコらしい反応だ。


「そこで、私の私兵としたのです。名前も変えて。騎士団長の称号を与えて。側仕えに」


 ならば、風当たりは自分へと向くだろうと。


「複雑な事情はわかった。しかし、だったらなおさら、危険なハンター業には適さないのでは?」

「私も、そう思ったのだけれど?」


 しかし、国王は首を振る。


「あなた方からすれば、私の行為は体の良い厄介払いかも知れません」

「……言葉を選ばなくてもいいなら」


 国王の指示は、俺からすればあまりいい印象を受けない。 


「私だって、彼女の身に危険が迫っているなら、閉じ込めていたでしょう」


 しかし、と国王は前置きした。


「オフェーリアは、こんな小さい国で生涯を終えるような子じゃない。私は常々、そう考えていました」


 たしかに、フェリシアの強さを見ればその実力は歴然だ。

 城でくすぶっていたとは思えない。


「この城にいては、オフェーリアの性根が腐ってしまう。好奇の目に晒されて、政治や権力などの情報を取り込みすぎて」


 その言葉は、たった一人の妹へ向けられていた。


「これからは、騎士フェリシアとして生きなさい。キミにはキミの人生がある。自由に生きなさい」

「陛……お兄さん」


 兄と呼ばれ、国王は微笑んだ。


「して、敵の情報というのは?」

「はい。こちらを御覧ください」


 サピィは、敵から押収した武装を、国王に見せた。 


 恐ろしく禍々しい武器を見せながら、サピィは告げる。



「これは、海賊版ブートレグといいます」

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