3-6 堕天使を殴りに行きます 後編

強敵 ブラックドラゴン

 五層へ向けて、オレは走る。


 こいつらの狙いは、リュボフじゃない。いくら同担拒否、自分より神に愛されている子だからと言って、聖女を殺した程度で得られるのはせいぜい「レアアイテムをゴミに変える」程度だ。


 エトムントも、標的ではない。彼は、特別な力はないから。もし彼を狙うつもりなら、塔で最初に殺している。


 では、今もっとも堕天使たちにとって驚異とは何だ?


 決まっている。


 フィーンド・ジュエルだ!


 だから、戦力は五層へ温存した。


 ジュエルを最もうまく扱う俺と、サピィを分断して。


 俺の前に、ハンター共が群れをなす。剣や槍で武装し、銃弾が飛び交う。


「どけおらああ!」


 俺はディメンション・セイバーを惜しげもなく打ち込む。戦略も何もない。ただ、眼前の敵を屠る。


 ハンターたちは、恐れを知らず襲ってくる。まるで、なにかに操られているようだ。


 斬りかかった相手には、蹴りを食らわせた。まともに相手をしているヒマはない。銃撃をしてくる相手には、ヨロイで武装した戦士を盾にして押し切る。


「なんて数だ!」


 どれだけ、戦力を温存していたのか。


 上空には、無数の堕天使で溢れかえっていた。


 中央にある鉄塔の上では、サピィと堕天使のリーダーであるペトロネラが戦っているようだ。


「トウコ、お前も前線で戦ってくれ。お前のほうが銃より早い!」


 リュボフが戦っている以上、守りを固めても仕方がない。リスキーだが、数を減らすほうが先決だ。


「おっしゃ! ストレス溜まってたもんね!」


 水を得た魚のように、トウコが暴れ出す。巨大サモエド犬の「ユキオ」と共に、戦場を駆け抜けた。


「フェリシア、前線に出て銃撃チームのサポートに回ってくれ!」

「わかったわランバート! うおおおお!」


 フェリシアも、前線へ向かう。

 得意の雷魔法を駆使しての高速移動は、まさしく電光石火のような動きである。


 二人の加勢で火力が出たことにより、こちらの形成が一気に逆転した。


「シーデーは後方で、ひたすら敵に弾を撃ち込んでくれ! 敵をこれ以上、サピィの元へ行かせるな!」

「承知! ランバート殿!」 


 それに、あのデカイ物体は。


「ブラックドラゴンか」


 黒竜と、リュボフが戦闘を繰り広げている。

 あのデカブツを倒さない限り、サピィの元へはたどり着けないだろう。


「ビョルン! リュボフを連れてサピィを助けに行ってくれ!」


 いくらサピィが魔王だと言っても、あの数は抑えきれないだろう。


「あんたじゃなくていいのかい?」

「俺は、コイツを倒してから行く!」

「期待しているぜ!」

「後ろは任せろ! 行け!」


 ディメンション・セイバーで道を作り、リュボフたちを行かせた。


「行こう、リュボフ!」


 リュボフの手を取り、ビョルンが鉄塔を駆け抜けていく。


「死ぬなよランバート!」

「簡単に死んでたまるか! おらああ!」


 セイバーでハンターたちを突破し、ブラックドラゴンに接敵する。


「ほほう。お主が秘宝殺しレア・ブレイクか。落涙公がかわいがっていると言っていたが、骨のようにか細い男ではないか」


 ドラゴンが、しゃべった。


「とはいえ、能力は本物らしいな。レアアイテムで武装したハンター共が、くず鉄をまとうようになっておるわ!」


 愉快そうに、ブラックドラゴンが笑う。


 セイバーを浴びたハンターたちの武装が、一斉にサビつく。俺の攻撃は、敵を倒さなくてもいい。相手のレアリティを奪うだけで。


「だが、その快進撃もこれまで。我がその呪いごと食らってみせよう!」

「やれるもんなら、やってみるんだな。おらあ!」


 ドラゴンの首めがけて、セイバーを放つ。


「くっ!」


 通じないとは思っていたが、やはり硬すぎる装甲に阻まれた。


「くそ、どうすれば……ん?」


 なんかジュエルが光っている。


 これは、さっき倒したラムブレヒトから手に入れたジュエルだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る