堕天使の目論見 ―サピィサイド―
五層に到達したサピロスたちの前に立ちはだかるのは、大量のモンスターとハンターたちだった。聖女を、待ち構えていたかのように。
やはり、おびき寄せられたか。
「ノコノコと、殺されに来たのね、リュボフ・ヒューコ」
天井に浮かんでいるのは、堕天使の長である『背徳者 ペトロネラ』だ。
顔かたちこそ、ヒューコ王の葬儀で見た姿と同じだった。
しかし、こめかみに黒いヤギの角が生えている。これこそ、堕天使の証だ。天使の輪が欠けて、角へと変形したのである。半裸に漆黒のローブを身に纏っていた。背中には、六枚の黒い羽を背負っている。
「みなさん、守るべきは聖女リュボフです! 参ります!」
サピロスが鼓舞し、戦闘が始まった。
ハンターは、ルーオンたちに相手をしてもらう。この数日で、本当にルーオンとコネーホは頼もしくなった。もはや保護者すらいらない。
自分は……ドラゴンを相手にするか。
「久しいですね、ブラックドラゴン」
おそらく、このドラゴンが堕天使の次に強い。
「その声、落涙公のフォザーギル卿か」
黒い鱗を持つ四本脚のドラゴンが、サピロスの前に立ちはだかった。
「声から発せられる魔力を感知するまで、こんな小娘が魔王とはわからなんだぞ。まだまだギヤマンに遠く及ばぬな」
「それは、あなたとて同じこと。随分と弱体化したではありませんか」
黒竜から煽られたので、煽り返す。見たところ、あのブラックドラゴンはサイズ的にまだ若い。血の気が多いのだろう。
「あなたほどの高名な方が、堕天使の小間使いですか」
世界を支配するほどのレベルを誇る黒竜が、どうしてこんな塔にいるのか。
「吠えていろ、小娘。ここは居心地がいい。エサも豊富で、外敵も少ない。手負いだった我には、ちょうどよいネグラだったのだ」
「で、居着いて引きこもってしまったと?」
どんな生命も、のんびり暮らしていては三日で心が腐るというが、彼はそれを地で行っている。
「なんとでも、言うがよい。生態系の頂点を維持するヒケツとは、戦わぬことだ」
「牙をなくして堕天使の犬となったあなたに、わたしたちは止められませんよ」
「言うようになった、落涙公!」
濁流のような黒いブレスを、黒竜が放った。
兵隊たちを守るように、サピロスは障壁を展開する。
「しまった!」
ルーオンたちまで、カバーしきれない。
「わああああ! なんかきたーっ!」
コネーホが、戦闘中のルーオンをお姫様抱っこしてこちらに走ってくる。
「助けてサピィ!」
「承知!」
フィールドを拡大して、全員を取り囲む。
「間一髪だったぞ!」
トウコがコネーホを引っ張り上げて、事なきを得た。
「さすが【ギャグ補正】ね!」
フェリシアが、コネーホの着ぐるみに付与されたスキルを絶賛する。
「無事で何よりです!」
「しかし、これでは戦力を分断されてしまいますな!」
シーデーでさえも、あまりの敵の数に手を焼いていた。犠牲者は出したくないが、全員を無事に帰せるか? ここは、三層以上の激戦になる。
なぜランバートを分断したか、今ならわかった。彼のディメンション・セイバーがいかに有効で、秘宝殺しをハンターが恐れているか。
【デトネーション】で周辺を爆殺すればハンターなど一発だが、サピロスのパワーではこの場の全員を殺しかねない。仕方なく、【破壊光線】で一体ずつ倒す。
それにしても、堕天使の姿が目立たない。ここは、塔の最上階のはず。どこかに潜んでいるのか?
「今よ。【アナザスカイ】!」
突然、ペトロネラがスキルを発動した。対象を自分の元へ引き寄せる術である。
サピロスの周りを、さっきまで姿が見えなかった堕天使の群れが取り囲んでいるではないか。
戦力を分断される……シーデーの悪い予感が、的中した。
「これで、この場は私とあなただけ」
サピロスは、ペトロネラと一騎打ちに。
だが、残存戦力だけで、ブラックドラゴンを倒せるのか?
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