バデム盗賊団

 現れた男性ハンターは肩を大きく斬られておびただしく出血している。


「こっちに来い。治療してやっからなー」


 トウコがハンターの肩に手を当てて、治癒魔法を施す。


「すまねえ」


 治療が一段落つくと、トウコはギルドの役員と交代する。


 役員から水ももらって、ハンターの男性はようやく落ち着いたようだ。


「バデム盗賊団とは?」

「ペールディネの貴族たちを狙う、盗賊団よ。ケチな犯罪集団だけれど、謎の豪商がバックに付いているみたいで、それなりに強いの。腕のいいハンターでも、手を焼いているらしいわ」


 少しでも相手が強いとわかると、あっさり手を引いてしまうそうだ。


「今まではそうだったんだが、今回はえらく強気だった。機動馬車さえ破壊して、隣国の姫様をさらってしまった!」


 ペールディネから帰る途中に、襲われたという。

 彼は護衛だったそうだが、彼を残してハンター部隊が壊滅してしまったらしい。


「大胆な行動だな」

「それがよぉ、あいつらペールディネのお姫様をさらった気でいるらしい。何度も違うって言ったんだが、野郎どもは信じてねえんだよ」


 その王女はキレイで品格もあるという。それで、間違えたのだろうと。


「どうする、フェリ――」


 フェリシアは、目の色を変えていた。

 今すぐにでも飛び出しそうな勢いである。


「わかったわ。私たちが行きましょう!」

「待ってくださいフェリシアさん! あなたの身になにかあったら!」

「隣国のお姫様に、危険が迫っているのです! 手遅れになる前に行きます!」


 交渉材料なら、相手を不用意に傷つけたりはしないだろうとのことだ。

 しかし、相手は盗賊である。理性を保てるかどうかはわからない。

 一刻も早く救出したほうがいいだろう。


「俺たちがついている。危ないことはさせない」

「わかりました」


 ハンターから詳しいアジトを聞き出し、救出に向かった。



 機動馬車に乗って、目的地を目指す。


「さっきも話していたが、ペールディネに王女なんていたか?」

「聞いたことありませんね」


 サピィも、ペールディネについてはあまり詳しくないようだ。


「フェリシアは、なにか知っているか?」

「先代王があちこちに手を出して、産ませた子が一人いるの。名前はオフェーリア様」


 ペールディネは正当な王子が二人もいるため、姫様は跡取り問題からは外れている。


「それでも他の国からすると、オフェーリア様ちょうどいい花嫁候補と言えるでしょうね」

「あるいは大スキャンダルになる、と」

「そうよ。おそらく、盗賊団はそのウワサを嗅ぎつけて、王女を狙ったのかも」


 なるほど。王様が隠したいわけだ。

 



 機動馬車から適度なポイントで降りて、様子を伺う。



「一気に殲滅した方が、早いような気がするわ」

「人質がいなければ、そうしている」


 はやる気持ちはわかるが、フェリシアには抑えてもらった。


 下手に動けば、相手が人質に危害を加えかねない。


 山小屋を見つけた。数名の見張りがうろついている。


「二手に別れよう。俺とサピィは右を、残りは左から攻めてくれ」

「承知した。よろしく頼む」


 茂みに隠れつつ、小屋へと近づいていった。


「いますね」

「俺がやる。サピィ、認識阻害ってできるか?」

「可能です。どうぞ」


 サピィの魔法により、俺たちの存在がボヤけていく。


「行くぞ」


 トパーズをはめた弓で、矢を放った。


 矢が誘導され、見張りの背中に突き刺さる。


 見張りは、白目をむいて倒れた。いびきを掻いている。

 殺すと悲鳴を上げてしまう可能性があるため、矢に昏倒の魔法を施したのだ。


 シーデーの側でも、動きがあった。

 フェリシアがトウコと共に、背後から盗賊に近づく。

 二人同時に、二人の盗賊の首を腕で締め上げた。

 スニークと、テイクダウンまで可能とは。手慣れたものだ。


 どうにか、小屋まで近づけた。


「違います! ワタシは、ペールディネのオフェーリア王女ではありません!」


 小屋の中から、声がする。

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