オフェーリア王女

 窓から、様子を覗く。


 白いドレスを来た女性が、縄で縛られてる。

 彼女が、隣国の王女だろう。

 髪型や目の色が、フェリシアに似ているようだが。


「ウソをつきやがれ! 変装したオフェーリア王女だろうが!」


 大柄の男性が、首狩り刀を王女へ突きつけた。彼が盗賊団の頭領か。


「全然違います! わたしはヒルデ・サドラー。サドラー小国の第三王女です!」


 王女が言うと、盗賊団が一斉に笑い出す。


「知っているんだぜ。ペールディネの先代王と、さる国のお妃さんとの間に娘ができていたってのを! 現に、ペールディネの馬車で移動していたじゃねえかよ!」

「こちらの機動馬車が破損したので、送ってもらったのです!」


 王女は、自らの身分を証明するブローチを、頭領に見せた。


 配下が、姫から強引にブローチを取り上げる。


 そのせいで、姫の胸元がはだけてしまった。


「間違いねえです。サドラー小国の紋章がありますぜ」

「サドラーだと? ちいいい! 高え身代金をふんだくれると思ったのによぉ!」


 頭領が、ブローチを床に叩きつける。


「何度も言っているじゃありませんか! ペールディネの王女は、並の騎士では歯がたたないほど腕の立つ女性です。ワタシなんかではとても」

「だろうな。しかし、サドラーみてえな貧乏国に、こんなベッピンがいたとは」


 舌なめずりをしながら、頭領が姫に手を伸ばす。


 その視線は、王女の破れた胸元に集中している。


「何をする気です!?」


 これからされることを想像して、王女が後ずさった。

 しかし、取り巻きに両脇をホールドされてしまう。


「離して! 離しなさい無礼者!」


 ヒルデ王女の声が、小屋内に虚しく響く。


「あんな小国から取れるもんなんて何もねえ。だが」


 盗賊の手が、今にも王女に伸びようとしたときである。


 小屋の中に、一陣の風が吹いた。


 フェリシアがガラス窓を突き破り、頭領の腕をはねとばす。


「ぎゃああああああああ!」


 フェリシアは王女を解放し、自身の背中に隠れさせる。


「そこまでよバデム盗賊団! よくもサドラー国の王女を! 覚悟しなさい!」

「うるせえ騎士様がよ! やっちまえ!」


 盗賊団が、フェリシアを取り囲んだ。


 いくら格下相手でも、姫を守りながら一対多数では分が悪い。

 これは、俺たちも参戦したほうがよさそうである。


 シーデーが、ザコ盗賊を指マシンガンで蜂の巣にしていく。


 何十人もいた盗賊が、一瞬で壊滅した。


 意外と、あっけなかったな。


「やった……かあ!?」


 なんと、シーデーにやられた盗賊が、ゾンビになって復活した。


「うわ、なんだコイツら! えーい、我に加護を!」


 拳に浄化魔法を込めて、トウコがゾンビを殴る。


 それでようやく、ゾンビが消滅した。


「だったらこれです! シーデー!」

「承知!」


 サピィがフェリシアたちを、氷の障壁で包んだ。


 その間に、シーデーが火炎放射器でゾンビを焼き払う。


「我に加護を!」


 トウコが浄化魔法を唱え、ゾンビを霊魂ごと清めた。


「残りはお前だけだ」

「ちくしょおお!」


 首狩り刀を構え、頭領が俺に斬りかかる。


「おらああ!」


 刀を弾き、盗賊の腹に一閃を決めた。


 頭領は、なおも俺に斬りかかろうとする。

 しかし、直前になって事切れた。


 ゾンビ化は……しない。

 俺が攻撃して死んだということは、コイツも武器か何かに操られていたというわけか。


 安心したのか、ヒルデ王女はフェリシアに抱きつく。


「ご無事で、ヒルデ王女」

「ありがとう、騎士様」


 フェリシアが、ヒルデ王女をなだめた。


 サピィが、頭領の死体から首狩り刀を手に取る。


「危なくないか?」

「大丈夫です。それより、重要な証拠品を手に入れました。 


 アイテムボックスに、サピィは刀を収める。


「詳しくは、ペールディネのお城で」

「城で、だと?」


 サピィは、俺の問いかけに答えない。

 その代わり、フェリシアに向き直る。




「話してくださいますよね、フェリシアさん。いや、オフェーリア王女」

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