シーデー・デストロイモード

「それが、お前の正体か」


「いかにも、これこそ私の生前の姿!」


 広い部屋を埋め尽くすほどのグチャグチャな思念体が、壊れたバイオリンのような声で叫ぶ。魔物すべての怨念を集めた物質、それがコイツの。


「デカすぎるぞ!」


「浄化魔法も受け付けない!」


 トウコとフェリシアのような聖職者を相手にしても、魔族の恨みは消えない。 


 どうやって倒せば? そもそも、攻撃が通るのか?


「ディメンション・クローッ! おらあああ!」


 秘宝殺しレア・ブレイクそのものを刀にまとわせて、俺は切りかかった。


 青黒い光の刃が炎のように巻き上がり、思念体を斬り裂く。


「なにい!?」


 しかし、効果がない。秘宝殺しがまともに入ったのに。


 いや。たしかに手応えはあったのだ。秘宝殺しは確実に、魔族の思念体を仕留めたはず。だが、一瞬で再生した。


「あれは殺せないのか、サピィ!?」


「いいえ、ランバート。確実にダメージは通っています。怨念が強すぎて、殺しきれないのです」


 殺しても殺しても、次々と思念が湧き上がるという。


「何億もの魔物を凝縮して、武器にしたもの。それがウェイジス・エッジ」


 億単位のモンスターや魔族を、あの武器一つに込めたのか。


「それを操っているのが、錬金術師ファウストゥスです。ファウストゥス本体を殺さねば、再生してしまうのです」


「どうやって見つけ出すんだ?」


 億単位の怨念なんて、吹き飛ばせるのか。


「お嬢、これではたとえマギ・マンサーの力を使っても」


「すでに使っていて、これだけの魔物からファウストゥスを探せないとは」


「仕方ありませんな。お嬢、我をお使いください」


「ですが、デストロイモードになれば、あなたは」


「再生はできぬでしょう。しかし、我はお嬢がいなければ、一度死んだ身。一つ命を失った程度、どうってことありませぬぞ」


 シーデーが胸を張る。


「……わかりました。手段を選んでいる場合ではありませんね。ランバート、相手の足止めをお願いします。こちらへ、特にシーデーへ近づけさせないで!」


「よし! おらあああ! ディメンション・セイバーッ!」


 刀から、俺は衝撃波を次々と連射する。


「うわ、なんだあれ!?」


 浄化魔法で思念体を押さえ込みながら、トウコが驚いた。


 シーデーの姿が、砲台のようになっていたのである。手で持てるタイプではなく、トーチカに近い。


「まだです! エネルギーの充填に、時間がかかります! あっ!?」


 思念体がヤリのように、サピィを貫こうと迫った。


「クソ!」


 セイバーで斬り裂くが、間に合わない。切り落とされた思念体はなおも、サピィを付け狙う。


「サピィ!」


「任せろ! ぐふう!」


 ゾーイが自分を盾にして、思念体の攻撃を受け止めた……。


「そんな、ゾーイさん!?」


「構わん、サピロス・フォザーギル! いけええええ!」


 口から血のような液体を吐きながら、ゾーイが叫んだ。


「吹き飛びなさい。【ギガ・インフェルノ】!」


 サピィが、引き金を引く。


 シーデーの目の部分から、閃光が放たれた。

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