最強のジュエル、【月】

「ぬおおおおおお!?」


 ゾーイの捨て身と、サピィとシーデーによる最終攻撃によって、突破口が開けた。


 ファウストゥスの核が、むき出しになる。


「今です、ランバート!」


「おお!」


 俺は、藍色の刀を構えた。ジュエルでできた刀に、全魔力を注ぎ込む。


「まだだ! 私はまだ負けていない!」


 死にものぐるいで、ファウストゥスも漆黒の魔力を放出した。


「おらああ!」


 迫りくる黒い質量を、俺は【ディメンション・クロー】で斬り裂く。


 藍色の光刃が、ファウストゥスの核を両断した。


「ば、ばかな。これまでの苦労が、人間の一撃によって、終わりを迎えるとは」


秘宝殺しレア・ブレイク】によって、ファウストゥスの実態を持った影が晴れていく。


 核から、ファウストゥスの体液が溢れ出した。黒い液体が、泡立つ。


「だが、まだだ! 私には息子がいる! 彼が必ず、我が悲願を達成してくれるに違いない! からな――」


 トウコとフェリシアが、同時に核を踏み潰した。


「いちいち、うるさいヤツだったのだ」


「そうね。耳障りな」


 フェリシアも、息を整える。


「そうだ。ゾーイ!」


 ゾーイは柱に横にされていた。ジェンマが、そばに付いてくれている。


「大丈夫か、ゾーイ!」


「構うな。ワタシは機械だ。これしきのこと」


 平静を装っているが、ゾーイは虫の息だ。


「ジェンマ、ゾーイの容態は」


「あまりよくはないかな」


 やはり、ここへおいておくわけにはいかない。連れて行くわけにも。


「さっきも聞いていただろう。アイツには、隠し玉がある。それはきっと、クリム・エアハートだ。ヤツが敵に寝返った可能性は高い」


 息も絶え絶えに、ゾーイは警告してくる。


「あいつが敵かどうか、俺が判断する。トウコ」


 俺は、ゾーイをトウコに預けた。


「ゾーイを連れて、逃げてくれ。お前の召喚獣なら、ゾーイを運べるはずだ」


「わかったぞ」


 トウコが、サモエドを喚び出す。


「ではフェリシア、あなたは、シーデーをお願いできますか?」


 サピィが、動かなくなったシーデーをフェリシアに託した。


 シーデーは杖状態のまま、ピクリともしない。


「少々の重さは、ご容赦を」


 声を出しているから、シーデーは死んでしまったわけではないようだ。


「そうね。ココから先は、あたしも役に立てそうにないから。それと、ペールディネから援軍を呼ぶわ」


 フェリシアにも、ついていってもらうことに。


「頼んだぞ、フェリシア」


「OK。必ず生きて会いましょう」


「約束だ」


 ファウストゥスの間から一旦外に出て、トウコとフェリシアたちを見送る。


「ここから先は、私が案内する」


 ジェンマに導かれて、魔王たちがいる場所へ。


「ランバート、これを」


 サピィが、フィーンドジュエルを俺に差し出した。


 手に取ったジュエルは、歪な凸凹がある。


「なんだこの宝石は……見たことがない」


 ジュエルというより、鉱石とも言えた。


「これは、【月】です。月の隕石と言えばいいでしょうか」


「あなたの持つ刀、【黒曜顎コクヨウガク】をさらに強化するジュエルです。あなたは、月の魔力を得るでしょう」


「ありがとう、サピィ」


 さっそく刀に、ジュエルを仕込んだ。


 月は、魔族にとっての太陽らしく、魔物は魔力を浴びてより強力になるという。魔族の中には、月を信仰する宗派まであるとか。


 そんな恐ろしい力が。


「ファウストゥスは、月の力を持ったジュエルに変わったのか?」


「むしろ、最強のジュエルは月そのものです」


 サピィたちのようなフィーンドジュエルを作る種族は、月から来たという言い伝えまであるとか。


「その力があれば、もしクリム・エアハートがファウストゥスに乗っ取られたとしても……」


「静かに」


 俺たちの会話を、ジェンマが遮る。


 奥の扉は、開いていた。


 すさまじい、血の匂いがする。 


「父上!」


 ジェンマが叫んだ先には、心臓を撃ち抜かれて絶命している魔王が。


「やれやれ。伝説の魔王と言えど、歯ごたえのない」


 フルフェイスのヘルメットをかぶったクリムが、ただ一人台座の上に座っていた。

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