4-5 かつての友と殴り合います。

敵の手に堕ちた親友

「私の分身を倒したか、ランバート・ペイジ。どうやら、お前を甘く見ていたようだ。だが、もう遅い。私は新たな力と身体を得た。お前たちにもう勝ち目はない」


 クリムの口調は、別人のようになっていた。

 頭にかぶっている白い鉄製のマスクは、かつて倒した【能面ノーメン】を思い起こさせる。


「お前は、クリムではないな? ファウストゥスか」


「クリム? ああ、この個体の名前か。そうだ。彼……九番はそもそも、このファウストゥスのコピー体だ。彼は私であって、私ではない」


 どうやらクリムは、ファウストゥスからは番号で呼ばれていたようである。


「エアハートという男性ハンターの手で九番は脱走し、クリムという名を得た。監視用のチップも外されて、もう私の制御下ではなくなった。皮肉にも、そのせいで過酷な戦場を駆け抜けた末に、無敵の力を得た。まさか、自ら私になりにくるとは思わなかったがね」


「お前が勝手に、クリムを捨てたのだろう?」


「九番は我がクローンの唯一の成功例だったが、異分子だった。人格を得たせいで、彼は自分の意志で私に逆らった。対抗する手立てを開発したものの、私もここを離れられない体になっていた」


「死んだ、と」


 そのとおりだと示すかのように、クリムはコクリとうなずく。


「貴様、父上の仇!」


 激昂したジェンマが、クリムに飛びかかった、接敵し、剣を抜く。


「いかん! 待つのだ、ジェンマ!」


 躯になったと思われた魔王グスターヴォ・ダミアーニが、ジェンマを呼び止めた。


 一瞬ジェンマは動きが止めたが、構わず斬りかかる。


「愚かな。親娘共々同じ道を歩むがよい」


 クリムが発砲する。見たところ、超レアアイテムだ。あるいは、呪いのアイテム【オミナス】かもしれない。


 ジェンマは剣で、攻撃を弾く。周囲すべてを斬り裂く、全方位剣戟を放った。


「ぐはあ!」


 だが、ジェンマは腹を撃ち抜かれる。


 切られたはずのクリムには、傷一つついていない。ただ座っているだけなのに。


「ぐうう!」


 撃たれた衝撃で、ジェンマは遠くに飛ばされる。


 追撃しようとしたクリムの足首を、仰向け状態のグスターヴォが掴んだ。


「やつは超高速で、こちらの攻撃をすべてかわしてしまう! うかつに手を出せば」


 グスターヴォが、血を吐く。心臓を破壊されて、かつて最強と言われた魔王も虫の息だ。


「やかましい。苦しみたくなければ、おとなしく死を待っているがいい」


 クリムの身体を借りたファウストゥスが、グスターヴォの傷口を踏み潰す。 


「サピィ!」


「はい! 【インフェルノ】!」


 俺の指示に合わせて、サピィがクリムの顔に超火力魔法を放つ。


「この程度の火炎弾、目くらましにも……むう」


 どうやらクリムにも、俺たちの狙いがわかったらしい。


 俺たちはジェンマとグスターヴォを、回収していた。


 サピィと俺で、【リザレクション】を唱える。

 蘇生に近い治癒を行えるが、こちらのレベルが少し下がってしまう。

 とはいえ、背に腹は代えられない。


 ジェンマとグスターヴォが、どうにか一命を取り止める。


 だが、いつまで経ってもレベルが下がらない。


「まさか、これが【月】のジュエルの力か」


「はい。あらゆるペナルティを打ち消します」


 とはいえ、グスターヴォは助かりそうになかった。

 リザレクションを受けても、体力が戻らないのである。


「ジェンマ、あなたはお父上を連れて逃げなさい」



「しかし、父のかたきを討つまでは!」


「このままでは、本当にグスターヴォは死にます! あるいはふたりとも死ぬ気ですか? グスターヴォがどんな思いであの化け物と戦ったのか、考えなさい!」


 なおもこの場にとどまろうとしたジェンマが、グスターヴォを抱いて去っていく。


「私の目を潰している間に、攻撃すればいいものを。仲間の回収を優先したか。哀れな。その甘さでよくハンターができたものだ」


「おまえが操っているクリムだって、同じことをしたさ」


 嘲笑するファウストゥスに、俺は言い返す。


「サピィ、お前も逃げろ。これは俺と、クリムとの戦いだ。お前は関係ない」


「いいえ。わたしは残ります。作戦があるのです」

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