サピィの秘策

 作戦があるって?


「サピィ。どんな秘策があると?」


「あのヘルメットに、高次元で潜入します。ヘルメットの内部にいるファウストゥスを倒せば、クリム・エアハートは元に戻るかと。ランバート、あなたはクリムの注意を引いてください」


 クリムは、ファウストゥスに操られているだけだと。


「虚弱公があの場に現れたのが、気になっていたのです。おそらく、虚弱公との戦闘時に、細工をされたのかもしれません」


「そんな能力が?」


「自分の命と引き換えに、相手の武器などの持ち物に取り憑いた可能性があります。誰にも気づかれず。あるいは、クリムになにかアイテムを持たせたか、取り付けたか」


 言われてみれば。クリムが自分から、ファウストゥスに味方するとは考えにくい。自分でヤツとの呪縛を解いたのだから。


「いくら親と言えど、しょせんは生みの親です。あなたの知り合いに育ててもらった恩のほうが、勝つはず。それを、あっさりと翻すとは思えません」


 俺以上に、サピィはクリムの性格を読み取っていた。


「かなり、クリムを買っているな」


「あなたが絶対の信頼を寄せている、友人です。そんな人物が、あっさり敵の手に落ちるなんて、よほどのことがあったに違いありません」


 クリム氏の家族は、コナツが保護している。優秀なボディーガードもいるから、負けるとは思えない。



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ゾーイ視点


 

 ゾーイは、コナツというドワーフの手で治療を受けていた。ルダニムで治すからいいといったのだが、コナツなる人物の腕は、ヘタな治療士より正確で繊細である。もう七割ほど、再生できていた。あとはルダニムで人工皮膚を移植すれば、完璧になる。


 横には、弟子のドワーフたちがシーデーへ処置を施す。彼も、故障したパーツを交換している。

クリム・エアハートの妹夫婦と母親が、コナツの元に避難していた。ファウストゥスが刺客を差し向けるかもしれないと。

 獣人族のミューエ、ドワーフのメグ、ヴァイパー族のゼンという三人の女たちが、コナツの家を警護している。


「あいつら、やっぱり襲ってきたぞ!」


「返り討ちにしてあげたわ」


 ペールディネから、トウコとフェリシアが戻ってきた。エアハートの洋食店は空き家になった直後、襲撃を受けたらしい。


「お疲れ様」


「くう、あたしが暴れたかったぜ。留守番つまんねえ」


 報告を聞いて、メグが悔しがる。


「ガマンせよ」


 ゼンが、メグをたしなめた。


「ここは毎日、こんなににぎやかなのか?」


 穏やかで騒がしい一日など、ルダニムにいては考えられない。すべてが精密に管理され、統率されている。イレギュラーなど、起きようもない。


「そうですなあ。ランバートやサピロスお嬢がいれば、もっと癒やされますぞ」


 シーデーはガハハと笑う。


「二人だけに任せて、大丈夫なのか?」


「十分すぎるほどの、戦力ですなあ」


 ゾーイは気をもんでいるのに、シーデーの落ち着きようはなんだ?

「心配ですかな?」


「いや、心配などはしていない。クリム・エアハートさえ死ねば、悲願は達成される……そう思っていたのが、覆されただけだ」


 本当の敵が判明した以上、ただちに報復に向かいたかった。


 しかし、この身体では。


「よお。ランバートたちを助けに行きたいやつは、いるか?」


 腰に銃を携えた男が、コナツの店に現れた。


「リックじゃねえか!」


 コナツが、男に声をかける。


「ルダニムで依頼があってな。ファウストゥスに総攻撃をかける依頼を引き受けてきた。お前たちも、行かないか?」


「いいな!」


 リックからの依頼に、トウコが即答した。フェリシアも首を縦に振る。


「やはり従者として、お嬢を一人にするわけには行きませぬ」


「そうだな。まだ、終わりじゃない」


 完全回復とはいえないが、ゾーイも立ち上がった。

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