ジュエル回収班 追加
「ご協力に感謝します。では、みなさんにはこちらを」
「おう」
サピィから腕輪を受け取って、ドワーフのメグがつけ心地を確かめた。
「そのリングによって、あなた方がモンスターを倒しても、ジュエルを会得できるようになりました。存分に回収なさってください」
「ありがとう。受け取っておくわ」と、ミューエ。
「さらに、もう一つ処置を施します。ランバート、お願いできますか?」
サピィに呼ばれ、俺は前に出る。
「ではみなさん、腕輪を装備した手を、ランバートの前にかざしていただけますか?」
ゼンが、「こうか?」と腕を伸ばした。
他の二人も、ゼンにならう。
「結構です。ではランバート、エンチャントを」
「この腕輪にか?」
俺はサピィに言われたとおり、腕輪にエンチャント魔法を施す。
腕輪が虹色に光った後、俺の魔力を吸収していった。
「これで、あなたのエンチャント効果が、彼女たちの回収したジュエルにも付与されます」
「そこまで、俺のエンチャントスキルは上がっているのか」
「わたしの作った腕輪に、あなたのエンチャントスキルを付与したのです」
装備にスキルを付与する方法はあるが、サピィが作ったアクセサリにも可能だとは。
「あとは装備ですね。武器防具で、ジュエルでエンチャントした装備が必要な箇所はありますか?」
サピィが尋ねると、三人とも名乗り出た。
ゾロゾロと、工房へと向かう。
「おう、なんでも対応してやるぜ」
工房で、コナツは三人からオーダーを聞く。
「実はこの大剣、レアじゃないんだよ。強化してもらえると助かる」
メグは、攻撃力の高い剣を求めた。ヨロイなどの防具関連はレアだから、変更しなくていい。
「鍵開けやトラップには自信があるだけど、対モンスターに不安があるのよ。強くで軽い防具を都合してくれるかしら?」
「耐性付きのアクセが欲しい。我がバッドステータスに陥ると、このパーティは壊滅するからな」
ミューエとゼンも、リクエストをする。
ゼンははじめから、毒やマヒに耐性がある装備で身を包んでいた。
「わかった。いっぺんに応えてやっから」
コナツは、自分の工房へ引っ込む。
装備ができるまで、待たせてもらうことにした。
その間、どこで時間を潰すか。
ペールディネにあるグレースの店という手もあった。
が、あそこの店主は「散骨のデーニッツ」の息子だ。
ミューエとメグは、パーティをデーニッツに壊滅させられている。
いくら彼が無関係だからといって、いい気はしないだろう。
「サドラーへ行こうかと思う。当分、メイン狩場となる」
ゼンがそう告げる。
ポータルを使って、サドラーへ。
さっそくカフェへ向かった。かつてヒルデ王女と通った場所だ。
「二人は、どうして仕事を引き受けてくれたんだ?」
「一番の理由は、あんたへのお礼だな。ジュエルを集めるだけで、金にもなる。こちらがあんたを助けることになるんなら、お安い御用さ」
メグが、笑いながら答えた。
「アタイもそうね。ランバートには感謝しているのよ。あんたオトコなのに、アタイ好きになっちゃいそう」
ミューエが、腰をくねらせる。
「女なんだから、男を好きになるのは普通じゃないのかー?」
「色々あるのよ」
何もわかっていないトウコを、フェリシアが抑えた。
「ゼンは、ヴァイパー族のアジトは、留守にしていいのか?」
「配下のモノが、取り仕切ってくれている。我々は、三人一組でボスだからな」
ゼンには、赤い剣士と青い魔術師が配下として従っている。
意思決定はゼンが行い、二人は実行に移す。
「よく組む気になったな。ゼンは、半分モンスターじゃないか」
「並の術者タイプはお呼びじゃないのさ。さらに難易度の高いクエストをやりたいからね」
俺の質問に、メグは答える。
「ゼンも、人間族と旅をするなんてな」
どういう心境の変化か。
「それだけ、フィーンド・ジュエルは魅力的な素材というわけだ。研究する価値はある」
なるほど、ブートレグで培った装備の製法を、今度はジュエルで試すつもりか。
ヴァイパー族は、人類と敵対する理由がなくなった。自分たちの信じていた魔王が、謎の組織の手に渡ったからである。神に頼らず、自分たちでなんでも考える必要性を感じているらしい。
「サドラーをメイン狩場とする、って言っていたな?」
「ああ。アイレーナは敵が弱すぎる。かといってペールディネも競合が多い。その点、サドラーは非戦闘系のハンターばかりだ」
コンピュータ関連のハンティングが多く、ミューエやメグの出る幕がない。
「では、例の遺跡なんていかがでしょう?」
以前サドラーの偵察のときに見つけた、古代遺跡を端末で示す。
「実はここ、セグメントとも近くてですね。地続きらしいのです。おそらく、調査依頼も来るかと」
「いいな。絶好の狩場だ」
ゼンも、食い気味にマップを確認した。
アイテムには期待できないが、レベリングにもちょうどいい。
しかし、アイレーナが手薄になるのか。
アイレーナに戻ると、装備が完成したという。
「おう、できたぜ。既存品にジュエルをつけただけだから、すぐだったぜ」
まずコナツは、メグの剣にジュエルをはめ込んだ。物理ダメージの増える紫のアメジストと、クリティカル率が上がる赤いルビーである。
ミューエは、ジャケットを新調した。素早さの上がる緑色のエメラルドはシーフ職の定番として、あらゆる攻撃を跳ね返す黄色いトパーズが目玉だろう。
デバフを防ぐピンクパールも追加した。
「トラップを扱うからな。毒耐性はお守り代わりだ」
「ありがとう。万が一に備えておくのは、大事よね」
最後、ゼンの装備周りを新調する。
パールをあしらったチャームを、コナツはゼンの腰につけてやった。コナツのデザインにしては、やけにおとなしい。
「こんな器用なチャームも扱うのか?」
「いや。これは別口で頼んだ。アクセは流石に、オレにも作れねえ」
なるほど、ダフネちゃんに頼んだのか。
「あんたには、もうひとつある。コイツは、オレが作ったやつだぜ」
ゼンのマフラーの両端に、ルビーとサファイアをはめ込む。ルビーは防具につけると腕力が上がり、サファイアは最大魔力値がアップする。
「防具につけるか武器につけるかで、性能が違うのか」
「習うより慣れろってもんさ。ジュエルの良さを知るなら、実際に使ってみなきゃ」
「助かる。サピィたちにも度々礼を言う」
三人は、ポータルでサドラーへ向かう。その後、俺たちはヒューコへ。
塔の前では、騎士団とコネーホたちが待っていた。
「待たせたな。行くか」
全員で、塔の内部へ足を踏み入れる。
だが直後、思わぬ事態が。
リュカオンだ。大勢のリュカオンに、俺たちは囲まれてしまう。
半円状に群れて俺たちの行く手を遮って、リュカオンたちはジリジリと近づいてくる。
「うわああ、来るなら来い!」
パニックになったルーオンが、剣を抜いた。
「ちょっとルーオン、焦りすぎ!」
コネーホが止めなければ、ルーオンはあのまま群れに突っ込んでいただろう。
「よさないか」
リュカオンの長らしきオオカミが前に出て、群れを下がらせた。
彼はランバートの前に。
「ランバート・ペイジ殿は? 気配がしたのですが?」
どうやら、オオカミは俺を探しているようだ。
「お前は?」
「我は、あなたに殺されたリュカオンの子どもです」
俺たちに、緊張は走る。
「要件は? 決闘か?」
俺は一応、いつでも刀を抜ける状態で構えた。
「いえ。お礼を言いに」
オオカミが、俺の前で頭を垂れる。
「父を楽にしていただき、ありがとうございます」
「いや。何もできずに、すまない」
「とんでもない。あれは、楽に死ねたと思います。おかげで我々を、塔の堕天使ペトロネラの支配から解放してくださった。感謝の言葉もありません」
ただ、と、リュカオンは続けた。
「実は、折り入って相談が」
「なんだ?」
「我々は、フロアボスを引退したいと思っております」
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