3-3 大人数で、殴りに行きます
ゆうべは、おたのしみでしたね
一夜明けて、朝食の時間になる。
「はよっす~っ」
ビョルンも起きていた。遅くまで飲んでいたはずなのに、朝から元気だ。とはいえコイツ、ネグリジェで寝るんだなぁ。身も心も女子なのでは?
食卓では、みんなニヤニヤしていた。
「なんだよ、トウコ?」
トーストにジャムを塗りながら、俺はトウコに尋ねる。
「アタシ知ってるぞ、ランバート。『ゆうべは、おたのしみでしたね』ってヤツだ」
どうやらトウコは、俺とサピィとの関係に対して、あらぬ誤解を抱いているらしい。
「違う違う。断じて俺とサピィはそんな」
「マジか。あんなべっぴんを侍らせておいて、手を出さないなんて」
ビョルンが驚きを通り越して、呆れている。
「あれは治療のためだ。決してやましいことをするためでは」
「はあ!? あんたって人は!」
俺が反論すると、唐突にフェリシアが立ち上がった。
「なんだよ、フェリシア?」
あまりの気迫に、俺はキョトンとなる。
「こんなセクシーなかわいい女のコがいて、手を出さなかったの!? 信じられない! サピィがどんな勇気をもって、あんたと添い寝したっていうのよ!?」
「そうそう。普通の男子なら、サピィの色気にかなうもんかよ」
ビョルンまで、俺を茶化してきた。ネグリジェを着た男のお前が、男らしさを語るか?
「大げさですよ、フェリシアさん。わたしは別に」
「いやいや、ちょっとランバートはヘタレすぎない?」
サピィがフォローを入れるが、フェリシアの怒りは収まりそうにない。
どうして、お前が憤慨するのだろう?
「まったくですな。据え膳食わぬは、男の恥ですぞ。ランバート」
全身機械のフォート族にまで、俺は説教されてしまった。
「どうして、そこまで責められなければならないんだ?」
「まったく罪なやつだぜ、ランバートさんよぉ」
ビョルンが、俺を茶化す。
「……?」
食卓を、沈黙が包み込んだ。
終始フェリシアは不機嫌で、トウコはずっとビョルンとニヤニヤしている。
「そうそう。今朝、ちょっと考えたのです」
サピィが、沈黙を破った。
「何をだーっ、サピィ?」
トウコは、ピーナツバターをパンにドバ塗りする。
「実は、ジュエルの回収が滞りそうなのです」
「そうなのか? 結構溜まったように思えたんだが?」
「ジュエル自体は、そうなんですが」
一応、トウコやフェリシアなどにもジュエル回収用のリングを装備してもらっていた。
しかし、ひとつのパーティだけでは限界がある。
ハンターたちに行き渡らない可能性もあった。
しかも俺たちは今、塔の攻略を急いでいる。フィーンド・ジュエルにまで気が回るかどうか。
「ジュエル回収の根幹を揺るがす、由々しき事態が発生していまして」
「俺が強くなりすぎたって話か?」
「申し上げにくいのですが」
サピィが、申し訳無さそうに肯定する。
先日も、コナツから「ジュエルをダウングレードして欲しい」と打診があったばかりだ。
どうやら俺が拾ってくるジュエルはレベルが高すぎて、並のハンターではもう装備できそうにないという。装備に要求するレベルが、跳ね上がるのだ。
「以前まで、ジュエル装備に要求レベル値は、最大のオーブサイズでも五〇くらいでした。上位ハンターの最大レベルが、このくらいです。人数はほんの一握り」
サピィが小さい指で、皿にイチゴを乗せる。直後、ぶどうを口に含んだ。
「今のあなたがドロップするシードサイズを装備するには、おそらく六五ほどのレベルが必要でしょう」
ぶどうのタネを指で口から出して、サピィはイチゴの隣に置く。
俺がドロップさせると、ジュエルはエンチャント済となる。初歩的なシードサイズでも、絶大な魔力を持つらしい。威力は、最大の大きさを持つオーブサイズの性能を超えるほどだ。
「それほどまでか」
「ランバート。あなたが落とすフィーンド・ジュエルは、もうあなただけで管理したほうがいいですね」
これでは、初心者ハンターの救済にならない。コナツが描いていた商売の理想像から、かけ離れていく。
「そこで、あなた以外にジュエルの回収班を募ろうかと」
塔攻略は昼からなので、朝のうちに協力者に声をかけようかと、サピィは動いている。
「今朝方、起きがけにハンター掲示板へメールで依頼書を送りました」
サピィが、ハンター用端末を確認した。
「メンバーですが、三人ほど声がかかっています。どの方も信頼できる方ですよ」
ハンター用端末を見ながら、サピィがそう告げる。
「手配は、サピィがしてくれたのか?」
「いいえ。向こうが志願してきました。その代わり、ジュエルを分けてくれとのことです」
「お前はいいのか?」
「はい。顔見知りですから」
俺たちは、サピィを伴って協力者に会いに行く。
アイレーナのハンターギルドで待っていたのは、三人の女性である。
「まあ会ったね、ランバート。アタイはミューエ。よろしくね」
一人は、前回俺に救援を依頼しに来た、白猫シーフだ。
ホットパンツから、白猫のシッポが生えている。
「えらくキュートだな。一杯おごらせてくれよ」
早速ビョルンが、ミューエを口説きに入った。
「フフ。ダークエルフにそう言ってもらえると、鼻が高いわ。でもね、アタイはオトコのハートは奪わない主義なの」
ミューエがつれない態度を取る。
「……ああ、そっち系のコかー」
なにかを察したかのように、ビョルンは手を叩いた。
「うふふ。そういうコト」
ビョルンにウインクをして、ミューエは語尾にハートマークをつける。
俺たちも、なるほどと得心が行く。
「どういう意味なんだー?」
理解していない人物が、ただ一人いるが。
「オトナになったら、わかるわよ」
フェリシアが、慈愛の微笑みを携えながらトウコをなだめた。
「私はメグだ。この間は助かったよ。ありがとう。今度は、私が助ける番だ」
もう一人は、女ドワーフ剣士だ。大胆なビキニアーマをまとっているため、女性ながらシックスパックが目立つ。肩に鉄塊を思わせる大剣を担ぐ。
「なんの。シックスパックなら、あたしも負けないぞー。ふーん!」
対抗意識を燃やしたトウコが、腹に力を入れた。
「あっはっは。同じドワーフでも筋肉量が違うさ」
「そっかー」
トウコが、腹を引っ込める。
たしかに、見事なシックスパックだった。が、トウコはマッチョというほどでもない。
トウコが軽量級なら、メグは重量級である。腕の太さから違う。
「とはいえ、私じゃあんたに敵わないよ。筋力は私が上だろうけど、くぐり抜けてきた修羅場が違う」
メグも、トウコがどれだけの大変な戦闘を乗り越えてきたかわかるみたいだ。
「サピィ、アタイはレベル二五、メグはレベル二七なんだけど、こんなんでいいの?」
ミューエがサピィに向けて手を上げた。
「十分です。適正レベルでしょう。最後の術担当者が、レベルが五二ですので」
「ほへえ。たしかにな」
サピィが答えると、メグも納得する。
その最後の一人は、意外な人物だった。
「久しいな。我らが手を焼いた、狂いし魔王を倒した英雄よ」
銀色のマフラーで顔の下半分を覆った、ヴァイパー族の魔術師だ。といっても、顔も全身も人間の姿である。目つきはややヘビっぽいが。全身黒尽くめで、革製のパンツスーツを身にまとっている。
「お前は」
彼女はゼン・ハックという。ヴァスキーに替わって、ヴァイパー族を治めている女王だ。
「ヴァイパー族の混乱を見事に終わらせてくれたこと、民に代わって礼を言わせてもらう」
「いいんだよ」
元々、あれはサピィの功績だ。サピィに礼を言ってもらいたい。俺は、手伝いをしたまで。
「ともかくだ。この三名で、フィーンド・ジュエルの回収をさせてもらう」
三人は自身のクエストをこなしつつ、ドロップしたジュエルも回収してくれるという。
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