唐突な、フロアボス
「ヤバイヤバイ。情報の抱え落ちとか、ヤバイよぉ」
その少年は、無数のモンスターに囲まれて足がすくんでいた。
少年ではあるが、エルフのためか美少女にも見える。
少年の傍らには、スキンヘッドの男性が。大量に出血していて、顔はよく見えない。
シーデーの目が光っていたためか、少年はこちらに気づく。
「あーっ、そこの人! 助けてぇ!」
ブンブン両手を振って、ダークエルフが助けを求めてきた。
「大ケガしている人がいるんだっ! 頼むよっ!」
「わかった。待ってろ! おらああああ!」
俺は、魔物の群れに斬りかかる。オーガ型の亜種に、刀を振り落とした。
オーガ型モンスターが、血を吐きながら倒れる。
「俺が突破して道を作る。サピィとシーデーは援護を。トウコとフェリシアは、ケガ人の確認を頼む!」
「わかったわ!」
サピィか俺が、大魔法で魔物を蹴散らしてもよかった。
しかし、負傷者がいる前での魔法は、フレンドリー・ファイアが起きる可能性が高い。
「氷の大魔法なら、問題ありませんか?」
「頼んだ」
「わかりました。ブリザード!」
氷の竜巻を起こして、サピィが周辺の魔物を凍らせた。
「この魔物たちを踏み台にしてください」
「よし! 感謝するサピィ!」
俺は、凍ったモンスターを踏み越えていく。
「援護するわ!」
タンク役のフェリシアが、俺に変わってモンスターの攻撃を受ける。
人がすっぽり隠れるほどのシールドを展開し、ダメージを軽減した。
「おらおらおらぁ!」
フェリシアの負担になってはいけない。
群がる魔物たちを、俺は迅速に切り捨てていった。
「くそ、まだまだいるぞっ!」
攻撃の手は、緩まらない。何が、この魔物たちを動かすのか。
「これは、攻めたほうが早いわね。ランバート、攻撃をスイッチするわ!」
フェリシアが、【ウェポンスイッチ】を行う。
両手持ちの、ブロードソードで武装した。
フェリシアは敵の種類によって、攻撃のパターンを変えるスキルを持つ。
「覚悟なさい。【プラズマソード】ッ!」
攻撃に転じたフェリシアが、神速の斬撃を繰り出した。
重量のあるブロードソードを、軽々と扱う。
雷属性と、速度強化のエンチャントを活かし、高速攻撃を放ったのだ。
「すさまじいな。戦闘特化のフェリシアは、こんなにも強いのか」
フェリシアの装備は、フィーンド・ジュエルで速度と雷属性を強化している。
とはいえ、並のハンターではあそこまで動けない。
彼女の訓練の賜物だ。
感心しつつ、俺はトウコたちが突入できる道を確保する。
ようやく、負傷者の間近まで来た。
「俺が来たからには、もう大丈夫だ」
「大丈夫じゃないみたいよぉ!?」
突然、フェリシアが悲鳴を上げた。
振り返ると、フェリシアの尻が眼前に。
「おわ!」
俺は、フェリシアの下敷きになる。
「あ痛ったぁ!」
背中で俺を押しつぶしながら、フェリシアが尻をさすった。
「痛いのはこっちだ!」
「ごめんなさい!」
俺の存在にやっと気づいたのか、フェリシアが俺から離れる。
「それにしても、あいつヤバイわよ!」
フェリシアの指差す方角に、巨大な魔物がいた。
「盾で防いだのに、吹っ飛ばされたわ!」
四本脚のケモノである。
オオカミとクマとサイをかけ合わせたような怪物が、こちらを見下ろしていた。
しかし、図体はトレーラーをも越えている。
「このオッサンも、アイツにやられたんだ」
ダークエルフの少年が、巨大な魔物を指差す。
「なんだあれは。伝説上の幻獣か?」
「フロアボスだよ。リカオンっていうんだけど、前はあんなに強くなかったんだ」
「リカオンだと!? もっと上の階のボスじゃないか!?」
「え、マジ!?」
なんでこんな下層にまで、上位の存在が降りてきたんだ?
「あれは、【イレギュラー】です! 塔の魔力を吸いすぎて、変異したのでしょう」
だとしたら、うかうかしていられないな。
「わたしが行きます。トウコさんは治癒を。フェリシアさんとシーデーは、共に負傷者の保護を最優先で」
「待ってくれ。これは俺にやらせてくれ」
サピィに代わり、俺は前に出た。
「ランバートッ!」
「いいんだ。これくらい自分でやらないと、いつまでもサピィに頼っていられない」
俺は、刀を構える。
コナツが作った俺の刀は、【イチモンジ】という。
刀といっても、刀身は真っ白だ。
獣の骨のように白く、一般的な鉄の色をしていない。
切れ味は木刀や鉄パイプのような、鈍器に近かった。
魔力を込める性質上、鋭利さより耐久性を重視したという。
訓練用というニュアンスもある。
「牙や爪と思って扱え」と、コナツからは言われていた。
その成果を、今こそ試すときだ。
「おらああ!」
刀を突き出し、魔物へ突撃する。
動物相手に、無謀にもインファイトで挑んだ。
接近戦なら、魔物側に分があるだろう。
相手もそう考えているはずだ。
そのスキを突く。
リカオンが、俺の上腕に噛み付いてきた。
まずは戦闘力を奪うつもりだ。
「おらあ!」
アッパー気味に、峰打ちを食らわせる。
バクンッ! と、不気味な音を立てて、リカオンが俺の腕を食い損ねた。
アゴを強制的に閉じられ、リカオンは不快そうな鳴き声を漏らす。
しかし、たいしたダメージは与えられなかったようだ。
強い。これがフロアボスか。
たいていは大人数で倒す敵である。
ソロで戦うほうが無茶なのだ。
「協力しましょう、ランバート!」
「まだ敵がいる。サピィはザコの処理を任せた!」
「……油断なさらないでください」
サピィは、周囲の魔物を祓う役割に戻る。
「さて。仕切り直しだ、イレギュラー・リカオン。どの程度か、試させてもらうぜ」
大きな腕を、リカオンが振り下ろしてきた。
まるで動物が獲物をいたぶるかのように、余裕の様子で。
「弄ぶつもりか?」
そんな傲慢さなど、吹き飛ばしてやる。
俺は刀を鞘に収め、直後に抜刀した。
「おらああ。【ディメンション・クロー】!」
魔力の刃で、俺は刀のリーチを伸ばす。
ムチのように伸びた刃を受けて、リカオンが手を引っ込めた。
何度も抜刀術を繰り出し、リカオンを下がらせる。
リカオンが反撃に転じるが、俺はそれより早く攻撃を続けた。
しかし、リカオンも俺の動きを読めてきたらしく、攻撃が俺のヨロイをかすめるように。
「くう!? こうなったら!」
俺は、二本目の刀に手を伸ばす。
【
ドラゴンとの戦いで、俺はコイツを手に入れた。
この刀を扱いやすくすることが、ヒューコへ来た目的である。
これを使うと、魔力をごっそりと持っていかれてしまう。
だが、この状況を考えたら。
フェリシアの銃、【福音】では威力が高すぎて、ダンジョンに被害が出る可能性もある。
ここは俺がやるしかない。
「くらえ、ディメンション・クローッ!」
俺は、濃藍色の刀を振り上げた。
ムチのような細いディメンションクローが伸びて、リカオンを縛り上げる。
ドンッ! という重い音が鳴り響き、リカオンをいとも簡単に切り裂いた。
「ぐほお!?」
同時に、俺も血反吐を吐く。心臓に負担がかかり、ひざまずいた。
出力を最低限に押さえたはずなのに。
「ランバート!」
「平気だ!」
サピィに治療してもらって、ようやく俺の容態も落ち着く。
「それより、勝ったようだな」
あれだけ強固だったリカオンの姿が、ただの肉塊へと変貌を遂げる。
「すごい。これが、ランバートの力なのですね」
「わからない。俺自身が、信じられん」
刀を納め、負傷者の元へ。
トウコの治療が、はかどっていない。相当な重症なのだろう。
「もう大丈夫だから、な」
俺は、ケガ人を見て驚く。
「お前、リックか」
そいつは俺とトウコにとって、かつての仲間だったからだ。
「お知り合いですか?」
サピィの問いかけに、俺はうなずく。
「ああ。彼はリック・ロードストリングス。俺の追放を提案した、張本人だ」
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