最終部 レアドロップしない男と、レアドロップしまくっていた男

4-1 ふぬけたドワーフを、殴ります

気の抜けたドワーフ

 翌朝になっても、コナツに元気がない。


 女将さんが作った夕飯どころか、朝食も残している。酒も飲んでいない。


 俺たちが集めてきたレアアイテムにも、関心を示さなくなっていた。


「ランバート。コナツったら装備品も修理だけ請け負って、新作を作ろうとはしないわ」


 銃の修理を頼んだフェリシアが、肩を落とす。


「おめえらが、やってみろ。いい機会だ。一流の素材に触れておけ」


 修理さえ、コナツは弟子に任せっきりだ。


 請け負った弟子の方も「うす」と返事はするが、気乗りしていない様子である。やはり、大将があんな感じでは、活気も薄れるのだろう。


 弟子の成長には、いいかもしれない。ただ、コナツには元気になってもらわないと。


 コナツはすっかり、気の抜けたエールのような状態になってしまった。 


「どうしたです? コナツ氏。お腹痛いですか? それとも、誰かとケンカしたですか?」


 事情を知らないダフネちゃんが、俺に質問してくる。


「さっきテレビに出ていた男なんだが、俺とコナツにとって親友だったんだ」

「やはり、ショックだったのでしょうね」


 気遣ってくれたのか、サピィが俺の手を取る。


 コナツに覇気がないのは、クリム・エアハートが指名手配となったからだ。


 相変わらず報道では、クリムの潜伏情報を求めている。


 俺とコナツの親友が、テロの首謀者だなんて。


「話す場所を変えよう」


 俺たちは、ポータルを使ってペールディネへ。クリムの妹である、グレースの様子も見に行かないと。


「だから、あたしは知らないって言っているでしょう! 母に聞いても同じよ!」


 エプロン姿のグレースが、騎士団に向かって塩を撒いている。


 たまらず、騎士たちは退散していく。


「まったくもう!」


 塩の入ったボールを、グレースがヒザで蹴った。


「大変だな、グレース」

「ランバート! 聞いてよ! 朝からこんな感じなのよ! もう商売上がったりなんだけど」

「わかったわかった。とにかく大所帯で押しかけてやるから、なんか作ってくれ」

「ええ! もうストレス発散には料理しかないわ!」


 料理が来るまでの間に、ダフネちゃんに事情を説明する。


「フムフムです。興味深いです。敵の立てた戦略だとしたら、これ以上ないのです」

「やっぱり、χカイの思うツボだったってわけか」

「はいです。どうも、クリム氏はχが滅んだ後も精力的に活動していたようなのです。きっと、そのスキを狙われたです」


 少ない情報の中から、ダフネちゃんが分析した。


 俺たちは昼食と、特大のバケツプリンをいただく。


 相変わらず、ここのハンバーグとトマトスパは最高だ。


「うんま! かーちゃん、こんなの作ってくれないんだぞ! チビ共に教えてやろ!」


 コナツの娘であるトウコが、一番喜んだ。いつもせんべいとか、おやつといえば油菓子ばかりらしい。


「ありがとう。でも大変じゃない? お父さんがショボくれるって」

「そっちの方がヤバいだろ。兄貴のデマが、広がっているだから」

「そうね。でも、あたしはいいのよ。もう結婚して、エアハートの家を離れた身だから。夫も、支えになってくれているわ」


 辛いはずなのに、グレースは気丈に振る舞っている。


「妻の様子を見に来てくださって、ありがとう」


 グレースの夫が、サービスのコーヒーを淹れてくれた。アイスクリームが載っている。甘いアイスが、コーヒーの苦味にちょうどいい。


「これ、兄さんの好物だったのよね」

「ごめん。思い出させてしまったか?」

「いいの。みんなには、兄を忘れないで欲しいから」


 グレース夫妻は、互いを信頼し合う。


「クリムを貶めたのがχだとして、そんなの一体誰が」

「以前拾った、χの首領のデータ解析は、まだなんですよね?」


 χの首領は、サピィが倒した。


「ああ。コナツでも突破できないくらい、暗号化されている」

「ヒルデ王女にも、協力を要請しましょう」

「そうか。デッカーだな?」


 デッカー、つまり電子機器に詳しい者たちに頼んでみるか。

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