第三章 完 指名手配

 塔の入り口まで送ってもらい、俺たちはビョルンと別れることに。


「またな、ランバート。コナツによろしく」

「ああ。伝えておくよ、ビョルン。地上に降りてくる機会があったら、また鍋をつつこう」

「かーっ、まいったね。あのメシを食えなくなるんだったな。どうしよっかな?」


 ビョルンが、調子のいいことを言う。


「なんだったら、届けてやるよ」


 ルーオンが、腰に手を当てながら自信ありげに告げた。


「いいのかい、ぼっちゃん?」

「この塔でもうちょっと修行したいし、今ならリックもいる。負ける気がしねえよ」

「そうかいそうかい。楽しみにしてるぜ」


 ビョルンはおどけているが、どこか悲しげな表情を覗かせる。


「今生の別れってわけじゃないから、いいじゃない」

「だな。ありがとうよ、リュボフ。そんじゃ。オイラたちはこの辺で」


 ビョルンが去ろうとしたところを、俺は呼び止めた。サピィも後に続く。


「なんだよ。オイラたち、夫婦水入らずでやっていこうと思ってるんだぜ?」

「本当に、地上で暮らすのか?」


 俺の問いかけに、ビョルンはハア、とため息をついた。


「オイラたちだけで話そう」と、回復の泉の場所まで向かう。

「……んだよ。気づかれちまったか」

「わかります。あなたは一度、死んだ身体です。再生に、神の力が使われました。あなたは生き返る代わりに、人としての生を終えたのではないですか?」

「ああ。そうだよ」


 サピィからの質問に、ビョルンは呑気に答えた。あくまでも、平静を装って。


「オイラは死んだ。で、正式に神のしもべとなった。リュボフとは夫婦になれたけど、完全な形では一緒にいられない」


 リュボフがビョルンの肩に触れようとした。


 しかし、すり抜けてしまう。


「な? こんな感じだ」

「それでいいのか、二人は?」


 覚悟したような表情で、リュボフは腹を擦る。


「いいの。あたしは、ビョルンの子どもを産むから」

「ご存知だったのですね。自身の体に起きていることが」

「以前から。だから、もういいの。ビョルンは神に仕える。わたしはこの地上を守る。それは、名誉なことなの」


 二人が納得しているなら、引き止めることはできない。


「わかった。じゃあ元気でな」

「おうよ。二人も、χカイなんかに負けるなよ」

「ああ」


 俺たちは、塔を後にした。


「じゃあなリック。ありがとう」

「礼を言うのはこっちだ。ルーオンとコネーホを守ってくれてありがとうよ、ランバート」


 握手を交わして、俺はヒューコを去る。




「ただいま……って、アレ?」


 なぜか、ダフネちゃんが後を付いてきていた。


「お前、ヒューコはいいのか?」

「はいです。あてくしの仕事は、あなたたちのサポートになりましたです」


 塔の管理で自由が効かないルエ・ゾンの代わりに、フィーンドジュエル系のアイテムを管理してくれるらしい。


 それはありがたかった。俺とコナツだけでは、作業の幅が狭い。


「コナツ。いま帰った」

「おう。無事だったか」


 なんだか、コナツのリアクションが薄い。


「まあ、座ってろよ。もうすぐメシが、できるから」

「歯切れが悪いな。どうしたんだ?」

「なんでもねえ」


 言葉ではそう言うが、コナツは振り下ろすハンマーに力が入っていない。


「これまで手に入れた、フィーンド・ジュエルを見てもらえるか?」

「ああ」


 ブラックドラゴンでゲットした【復活】の効果があるジュエルは、ビョルンの体内に埋め込んでしまった。


 残ったのは、ラムブレヒトの落とした分と、ペトロネラのジュエルである。


「堕天使の長まで、フィーンド・ジュエルに変えてしまうとか。とんでもねえな」


 言葉では絶賛してくれているが、コナツの目はジュエルに向いていない。


「どうしたんだ、コナツ? 今日はなんか、おかしいぞ」


 俺が声をかけると、コナツの子どもたちが騒いでいた。テレビに向かってなにかしゃべっている。


「とーちゃーん、またお友達がテレビに映ってるぞー」

「うるせえ! ランバートに見せるんじゃねえ!」


 珍しく、コナツが子どもたちに向かって怒鳴った。こんな風景、まず見ない。


 俺は、テレビに目を向ける。




『……秘密結社χカイの起こした一連の騒動に突きまして、政府はこの男を重要参考人として、世界で指名手配しました』




 政府がお尋ね者として公開した男の名は、クリム・エアハート。



 俺とコナツの親友だった。


 

(第三章 完)

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