マギマンサー再び
ヒルデ王女のいる、サドラーへ移動した。
「お久しぶりです、ランバートさんにサピィさん、それにみなさんも」
「すまんが、デッカーを手配してもらえないか? 詳しい事情は、後で説明をする」
俺はあいさつもそこそこに、ヒルデ王女に依頼をする。
サイバー関連の情報を吸い上げるデッカーに、
「ランバートさんのお友だちにテロ容疑がかかって、潔白を証明なさる? でしたら、ぜひご協力させてください」
すぐに、サドラーじゅうのデッカーが集められる。
クリムの無実を証明するために、デッカーは大いに役立った。
コナツが丁寧に、パーツを分解してくれたおかげである。へたに触ると、中のパーツごと爆発してしまう、危険な部品が大量に敷き詰められていたらしい。
「我も手伝いましょう」
シーデーが、セキュリティ打倒に手を貸す。そういえば、シーデーもデッカーだったか。とはいえ、シーデーだけではどうにもならない。やはり大勢のデッカーがいて、ようやく障壁を壊せるそうだ。
何もできないと思ったのか、トウコはみんなにお茶や食事を振る舞う。
どうにか、ファイアーウォールを突破することはできた。
χのメンバー、さらに資金提供者のリストがずらりと並ぶ。
「すごいわね。各国の首脳クラスまで、χに加担していたなんて」
フェリシアはさっそく、義理の兄が王を勤めるペールディネにデータを送った。
「内部から国を破壊して、自分たちの思い通りに動かすつもりだったんだろうな」
これで、χを徹底的に弱らせることはできる。
秘密結社というのは、資金源を立たれると弱いものだ。いくら志が高くても、先立つ物がなければ実行力さえ失う。
しかし、それ以外の有力な情報がない。決定打が。クリムが向かいそうな場所、なぜクリムに容疑がかかったのか、敵の本拠地さえ。
「お力になれず、申し訳ありません」
結論から言うと、もう手がかりはつかめなかった。
「いや、十分だ。ありがとう」
「これから先は、マギ・マンサーでもいらっしゃらないと」
「マギ・マンサーだと?」
「はい」
なんでも、特殊な術式が施されているエリアが最終地点にあり、デッカーでは入り込めないのだとか。
「ここは、姫様の出番ですな」
シーデーが、サピィと席を代わった。
「わかりました」
サピィが、意識を集中させる。
「ランバート、ついてきてもらえますか?」
「わかった。同じ魔術師同士なら、協力できるだろう」
高次元の魔術障壁に入るのだ。中で戦闘になるかもしれん。
「違います。わたしが、クリム・エアハート氏をよく知らないからです」
そうか。俺ならわずかな手がかりでも、クリムを追跡できる。
サピィと手をつなぎ、最後の障壁の中へ潜る。
「なんですか、ここは?」
目の前に広がる光景を前に、サピィが困惑した。
「ここは、昔のアイレーナじゃないか」
どうして、χの首領の脳に、こんな記憶が?
アイレーナによく似た土地に、一人の少年が立っている。
幼い頃のクリムだ。
雨が降ってきた。
というのに、俺とサピィは濡れない。
ここは、本当に誰かの記憶の中なのだろう。クリムか、あるいは別の誰かの。
クリムはシャッターの降りた店の前でしゃがみ、雨宿りをしている。
少年の顔を改めてみたが、間違いない。あの少年は、クリムだ。まだ三歳くらいか。物心はついているだろうが、自分であれこれ判断できる様子はない。
「どうした、ボウズ?」
幼き頃のクリムに、中年のハンターが声をかけた。
「あの人は……」
「ランバート、あの方は?」
「クリムの親父さんだ」
顔立ちは若いが、間違いない。中年ハンターが腰に下げているリボルバー銃は、今はクリムが持っているから。
まさか、二人は実の親子じゃない?
「いえを、おいだされた」
ハンターの問に、少年はそっけなく答えた。ふてくされているのか。
「なんでまた?」
「おまえは、しっぱいさくだ、って」
「それは、大変だったな」
中年ハンターは少年と同じように座り込む。「名前は?」と少年に聞いた。
クリムは首を振る。
「そうか。うちに来るか?」
「めいわくでしょ?」
言った側から、少年は腹を鳴らした。
「身体は正直だな」
ハンターは笑う。
「ガキが一人増えたくらい、問題ねえよ。友だちによお、お前と同じくらいの息子がいるんだ。遊び相手になってやってくれねえか?」
立ち上がって、ハンターが少年に手を差し伸べた。
少年は、中年ハンターの手を取る。
突然、俺とサピィの身体が、空高く浮かび上がった。
「ランバート!」
サピィが、俺の手を掴む。
ハンターと少年が見えなくなったところで、記憶が途切れた。
どうやら今のは、ドローンの映像だったようである。
最後に上昇しながら、少年とハンターから遠ざかっていったから。
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