謎のアンドロイド
俺たちは、現実に戻った。
「いかがでしたか、クリムさんという方の情報は?」
「ああ。少なくとも、あいつは事件に加担はしていない。それだけは断言できる」
断言はできないが、俺はクリムが無関係であると信じている。
「ご友人ですから、かばいたいお気持ちはわかりますわ。とはいえ確かな証拠がなければ、我々サドラーは保護できませんの。クリム氏もあなた方も」
ヒルデ姫の言葉は、もっともだ。彼女はたいへんリスキーな立場にいる。どこまで話せばよいものか。
「このボックスを調査した結果、どうやらクリム氏は
サピィが、代弁してくれた。
「なるほど。あなた方がこちらに潜っている間、エルトリの兵隊さんにお話を伺ったのです。エルトリが襲撃を受けている最中、クリム氏は、敵のガードが甘いポイントを積極的に攻め立てていたらしいのですわ」
元々χに所属していたなら、そんな戦法は可能かもしれない。
「どうも、相手の戦略を完全に把握していたようでして」
精密すぎて、逆に怪しまれてしまったわけか。
「ですが、ランバートも混乱していまして。姫、情報を整理する時間をいただけませんか?」
「承知いたしましたわ。ありがとうございました」
新しい情報ばかりだ。クリムと親父さんは、血が繋がっていなかったなんて。
クリムの無実を証明するどころか、ヘタをするとますます彼を追い込んでしまう。そんな情報だった。このボックスで得た内容は、口外できない。
それにしても、誰の記憶なんだ? まさか、クリムの実父とでも?
「サピィ、あの記憶は誰のものだったんだ? やはり」
「ええ。本当の父親のものでしょう」
破棄したクリムを、実父が監視していたのかもしれない。
「ランバート、クリム氏のお父上というのは、どんなだったんです?」
「豪快な人で、人当たりも良かった。俺の父親とは正反対な性格だった」
俺の父は寡黙で、口数が少なかった。
「また彼は、俺の父を介錯してくれた男性でもある」
呪いの装備郡【オミナス】の一種を、掴んだ父を。
その後、クリムの父親はハンターを引退した。ギルマスの補佐という役割を得る。
稼ぎは少なくなったが、子育てに専念するように。
俺とクリムを育て、鍛えててくれた。
「ランバート、そのハンターは、今はどちらに?」
「俺たちがまだガキの頃に、亡くなったよ」
首を振って、サピィに告げる。
「……ペールディネに戻ろう。聞きたいことが、山ほどある」
そういう情報は、関係者に直接聞いた方がいい。
ペールディネの、グレースの店に戻った。
またグレースが、誰かに絡まれている
今度は、ペールディネの騎士団とは違う奴らのようだ。
グレースに話しかけているのは、ベリーショートの女性である。
身体にフィットした、ライダージャケット風のバトルスーツを身に着けていた。
後ろにいる他のメンバーも、なんだかマネキンを思わせる。
「正直に話してくれれば、悪いようにはしないわ」
口調自体はまともだが、声色が威圧的だ。まったく抑揚がない。
「何度も言っているでしょ? クリム兄さんについては何も知らないわよ」
「あなたが知らなくても、あなたの母親なら、なにか情報を持っているはずよ」
「母は、身体が弱いのよ。無理強いさせたくないわ」
「話しなさい。これは、あなたの兄上の潔白を証明するカギとなるのよ」
ベリーショートの女は、真っ赤な紅を引いた唇だけが動いているような、不気味な感じである。
「わからないものは、わからないわ。何も食べないなら商売の邪魔だから、もう帰ってちょうだい」
「邪魔をしたわね。我々【セイクリッド】は物を食べなくてもいいから、あなたたちの文化には触れられないの」
女性が、名刺を差し出す。
「ワタシは異端審問官、【セイクリッド】団のゾーイ・ディロンよ。話したくなったら、いつでも連絡をちょうだい」
そういって、ゾーイと名乗ったベリーショートの女性は去っていく。
すれ違いざまに、女性はこちらを見た。目が動いた瞬間も、人間とは思えない動きである。
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