ヴァスキー、エルトリを蹂躙

 ヴァスキーが、前へと進む。


 街はもう、目前に迫っていた。


 廃墟と化したサドラーの街が、俺の中でよぎる。


「ここは退くべきだ。対策を練る」

「そうですね。ヤツのスキを見つけて、再度攻撃しましょう」


 俺たちはヴァスキー討伐を一旦やめ、住民たちの避難を優先する。


 入れ替わるように、戦車隊が俺たちの横を通り過ぎた。

 エルトリの全戦力かもしれない。そう思わせるほどの数だ。


「姫、ゼンは我が担ぎましょう」

「お願いします」

 

目を回しているゼンをシーデーに預け、サピィはケガ人の治療を始めた。


 俺とトウコも、住民たちを避難所へ誘導する。


「こんな遠くにいても、すごいスケールだな」


 ビルより大きな巨体が、ズンズンと道路を渡っていった。


 ヴァスキーが、動いただけでビルをなぎ倒す。


 戦車が数台、ガレキの下敷きとなった。


「ひるむな! 撃てぇ!」


 エルトリの指揮官が、戦車に一斉掃射を指示する。


 だが、戦車陣に覇気がない。通じないとわかっているからだ。

 それでも撃たねばならない。

 自分たちが逃げれば、街に影響が出てしまうからである。


 しかし、乗っ取られたヴァスキーの敵ではない。

 オモチャを弄ぶ子どものように、ヴァスキーは戦車を薙ぎ払う。


「まったく歯が立たない」

「一度は世界を滅ぼした魔物の一人ですからね」


 そんなバケモノ、戦車程度が止められはしないか。


 ヴァスキーの頭部に、ロケットが突き刺さる。

 何者かが、ビルの屋上からランチャーを撃ったのだ。


 しかし、頬を軽く焦がした程度で、大したダメージは与えていない。


 裏拳で、ヴァスキーはビルごと狙撃手を粉々にした。

 その威力は、ロケットの倍はあろう。


「ヴァイパー族の神が復活したぞ!」

「我らが神、ヴァスキー様、ばんざい!」


 一方で、ヴァイパー族は色めき立つ。

 自分たちの首領が乗っ取られていることも知らずに。


「よせ! 近づくな!」


 俺はヴァイパー族に呼びかけた。


 しかし、ヴァイパー族は俺の話を聞き入れない。

 彼らは、本当にヴァスキーが復活したと思い込んでいる。


「ほうっておきましょう、ランバート。今は、何を言ってもムダです!」


 そうだな。

 ゼンが気絶している以上、ヴァイパー族の誰もヴァスキー以外の言葉に耳を傾けないだろう。


 ヴァイパー族が集まって、ヴァスキーの眼前にひざまずく。


「偉大なる神、ヴァスキー様! 我々に教えを」


 ヴァスキーが、街の外に視線を送った。

 ピラミッドのような三角柱の建物が見える。


「あれは?」

「ヴァイパー族の神殿です」


 黄金のピラミッドを見ながら、ヴァスキーは身体を仰け反らせた。

 次の瞬間、血の色をしたブレスを吐き、神殿を粉々に。


「……おおおおお!?」


 信者たちへの信頼を、ヴァスキーは炎のブレスという形で踏みにじった。


 なおもヴァスキーは、ヴァイパー族をシッポで踏み潰す。


「なんだ!? ヴァスキーは我々の味方ではないのか!?」


 ようやく彼らも、ヴァスキーの様子がおかしいと気づいたらしい。

 一斉に逃げ惑う。


 だが、ヴァスキーは情け容赦なく、ヴァイパー族を火炙りにしていった。

 ヴァイパー族をアリのように潰すその顔は、愉悦にまみれているように見える。

 悲鳴をエサにしているのだろう。


『……は! ヴァスキーが! こんにゃろ!』


 気絶していたゼンが、シーデーの上で身体をバタバタさせる。


「おとなしくなさいっ。危ないですからね」

『くそ、離しやがれ! あいつをどうにかできるのは、オレたちだけだ!』

「今コクピットに行けば、あなたのほうが乗っ取られるでしょう。そうなれば、今度こそヴァスキーはおしまいです」

『チッ!』


 シーデーに説得され、ゼンは暴れるのをやめた。

 それでも、あきらめてはいない様子である。


「あのバケモノを止める方法はないのかーっ!?」


 住民を避難させながら、トウコはヴァスキーの姿を見上げる。


「一つだけ。こっちには、奥の手があります」


 サピィが指を一つ立てた。


「ゴッド・ノイズです。フェリシアさんの銃があれば、あるいは」

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